読み書きできない米学生、いかに成績優秀者になり、なぜ市を訴えたのか

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 公立校に12年間通ったにもかかわらず、読み書きができないというアメリカの女子学生が、市などに対し訴訟を起こした。幼少期から学習障害があったにもかかわらず、学校側から適切な指導を受けられず、不当な扱いを受けたという。独自学習により大学進学を果たしたが、これまでの精神的苦痛は耐えがたいものだったとして賠償を求めている。

◆教師の助けなく……学習障害を放置
 訴えを起こしたのは、コネチカット州に住む19歳の女性アレイシャ・オルティスさん。CNNによれば、アレイシャさんはプエルトリコ生まれで、幼少期から学習障害がみられたという。5歳の時に、より良い学習環境を求めてコネチカット州に家族で引っ越した。

 訴状によれば、小学1年生時、アレイシャさんには文字、音、数の認識における学習障害があった。しかし学校側の適切な対応はなく、6年生になっても幼稚園~小学1年レベルの読解力しかなかったという。それでも小中学校では進級が続いた。移民の母親は英語がうまく話せず、教師に言われるがままにしていたという。

 アレイシャさんはハートフォード市の公立高校に進学したが、成績は芳しくなかった。2年時に特別教育の教師兼ケースマネージャーから繰り返し嫌がらせを受け、ほかの教師や生徒の前で学習障害があることを嘲笑されたという。その行為を学校関係者に報告したことでケースマネージャーは解任されたが、その後も学習障害は改善せぬまま、高校を昨年6月に卒業した。

◆テクノロジーに救われた 成績大幅アップ
 実はアレイシャさんは成績優秀者として卒業し、奨学金を得てコネチカット大学に進学している。コネチカット・ミラー紙によれば、読み書きができない彼女はノートを取ることができなかったため、授業を録音して聞き返すことにした。中学の最後の年から始め、高校までそれを続けた。

 CNNによれば、アレイシャさんはさらにテクノロジーの力を借りて困難を乗り越えた。録音した授業を聞く際には音声テキスト変換ツールを利用。知らない言葉の定義を検索して、そのテキストをまた音声に変換して理解した。宿題の内容を理解すると、その答えを口で話してテキストに変換。コピペを駆使して文章を仕上げた。完璧な出来栄えではなかったが、この方法で成績は大きくアップしたという。

◆提訴理由は精神的苦痛 公教育のあり方への問題提起にも
 ハートフォード・ビジネス・ジャーナルによれば、アレイシャさんが訴えたのは、ハートフォード市、地元教育委員会、解任された教師兼ケースマネージャーだ。300万ドル(約4.4億円)の損害賠償を求めているが、学習のための十分な支援を受けられなかったことに対してではなく、嫌がらせやいじめ、ネグレクトを受けたことによる精神的苦痛に対するものだという。

 一方、ニューズウィーク誌は、この訴訟は公教育、特に学習障害のある生徒への支援における制度的な問題への懸念を浮き彫りにしていると述べる。成績の測定方法や、生徒が必要とするスキルを本当に身につけているかどうか、さらに大学が志願者をどのように評価するかについても疑問を投げかけるものだとしている。

Text by 山川 真智子