トランプ以上に危険? バンス氏の「攻撃性」に驚き、警戒する欧州

Brandon Bell / Pool via AP

 アメリカのバンス副大統領が4日にテレビインタビューで語った「30~40年も戦争していないどこかの国」という言葉がイギリスとフランスを指しているとし、欧州で物議を醸した。バンス氏は、2月のミュンヘン安全保障会議でのスピーチで、欧州の指導者らを非難。また先のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との会談では、激しい口論の火付け役ともなっており、欧米間の緊張を高める存在となっている。

◆戦ってきた兵士を侮辱 英仏から怒りの声
 問題の言葉は、米フォックス・ニュースのインタビューで発せられた。アメリカにウクライナの経済的権益を与えることは、「30~40年も戦争していないどこかの国から2万人の軍隊を派遣するよりも、はるかに安全保障になる」とバンス氏は発言した。

 この「どこかの国」が、ウクライナに平和維持軍を展開する構想を持つイギリスとフランスを指しているとし、欧州各国で非難の声が沸き上がった。2001年の9.11テロ後にアメリカとともにアフガニスタンで戦い、2003年にはイラク侵攻に参加したイギリスでは、戦った兵士たちの奉仕と犠牲を無視する発言だと、政治家や元軍人などから怒りのコメントが出された。またフランスでは、セバスチャン・ルコルニュ国防相が「軍隊の最大の強さは兵士の勇気である」と反論した。

 バンス氏は、イギリスとフランスを否定していると解釈するのは「ばかげた不誠実さ」だとし、英仏はアメリカとともに勇敢に戦ってきたと述べた。その一方で、多くの国々が戦場での経験も十分な軍備もないのに支援を買って出ているというのが、率直な意見だと付け加えた。

◆大統領の忠臣 欧州警戒
 バンス氏は、これまでも欧州の民主主義に疑問を投げかけている。2月のミュンヘン安全保障会議では、言論の自由や移民流入に関し、欧州各国が自らの価値観から後退していると批判していた。また、先日のトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談に同席した際には、ゼレンスキー大統領に向かって批判的な発言を展開。それまで和やかに進んでいた会談は、バンス氏の発言を機に一転厳しい非難の応酬となった。

 ゼレンスキー大統領への発言から、バンス氏はトランプ大統領に代わって相手に食ってかかる「攻撃犬」としての役割を強めているとロイターは指摘。忠臣として仕え、鋭い口調でトランプ大統領を擁護するポジションを確保したとしている。同じ側近であるイーロン・マスク氏とは違い、トランプ大統領の面前でゼレンスキー大統領に挑んだことで、腕を見せつけたというアメリカ政府関係者の発言も紹介している。

 米ニュースサイト『セマフォー』によれば、バンス氏は当初、欧州メディアから裏方として見られていた。だが、2028年の大統領選にも出馬できるため、欧州にとってトランプ大統領よりも危険な存在になりうると警告するイギリスメディアもある。ドイツとフランスの大手紙も「危険」「前例のない攻撃性を見せた」として警戒している。

◆「バンスはエリートでいじめっ子」
 英ガーディアン紙に寄稿したポーランド出身の社会学者、カロリナ・ウィグラ氏と政治アナリストのヤロスワフ・クイシ氏は、バンス氏の自伝小説『ヒルビリー・エレジー』に触れ、感動のベストセラーではあったが、理不尽な子供時代を経て普通の生活を再建したいという願望がポピュリズムの温床になることを示したと述べる。

 バンス氏は、衰退した地域での苦難が、自身の破滅的な政治的方向性を正当化するかのように振舞っているが、最終的にはイェール大学ロースクールを出てアメリカ副大統領に落ち着いており、説得力はまったくないと両氏は述べる。トラウマの政治的影響は過小評価すべきではないが、否定的な経験には、偏向と憤りを助長するほかに、連帯と思いやりを育むという選択肢もあるとしている。

 ゼレンスキー大統領との会談では、バンス氏の『ヒルビリー・エレジー』は、連帯と思いやりを必要とする人々をいじめる「ヒルビリー・ユーロジー(追悼演説)」になってしまったと両氏は指摘。バンス氏の新保守主義とは、強国が小国を軽蔑し攻撃するという教義に従った、昔ながらの普通の保守主義に見えるとしている。

Text by 山川 真智子