ISにも宣戦布告、アノニマスとはどういう集団? お騒がせ者がいつしか社会活動家に変身

 国際的ハッカー集団「アノニマス」が、過激派組織「イスラム国」(IS)に対して「宣戦布告」したニュースは国内外で大きく取り上げられている。9月以降、アノニマスによると思われる攻撃が国内でも相次いでおり、報道でその名を目にする機会が増えている。アノニマスとはどのような集団で、何を基準に攻撃対象を定めているのだろうか。

◆いたずら者から社会的な意図をもった活動にシフト
 ガーディアン紙はアノニマスを、インターネット上で最も戦闘的な集団の1つと評している。フォーチュン誌によると、アノニマスは10年以上前に匿名ネット掲示板「4chan」で誕生したと考えられているという。フォーリン・ポリシー誌(FP)、BBCによれば、当初は非政治的で、手当たり次第にハッキング攻撃して面白がるお騒がせ集団だったようだ。しかしやがて、「ハクティビスト」(ハック+アクティビスト、ハッキングを手段とする社会活動家)としてのスタンスを確立していったようである。BBCは、ここ最近、アノニマスは真面目になっている、と語る。2012年には、タイム誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」に選出されている。

 アノニマスが系統だった組織ではないことは、多くのメディアが指摘している。CBSは「ハッカーたちのルーズな連合」と説明している。「アノニマスは本当の意味で1つのグループではない。総括的な名の下での、多くの人たちの活動だ」とサイバー戦争の専門家デービッド・ゲワーツ氏はCBSに語っている。アノニマスの意思が統一されていると考えるのは、注意が必要かもしれない。

◆どのような対象に攻撃?
 フォーチュン誌によると、アノニマスが有名になったのは、2008年のアメリカ発の新興宗教「サイエントロジー教会」への攻撃以降だという。FPによれば、アノニマスにとってはこれが最初の「政治的」活動だったという。同教会が作成した、トム・クルーズが登場する信者向け動画がYouTubeに公開されたのを、同教会が削除させたことをきっかけに攻撃が開始されたものらしい。

 その後アノニマスは、他者に対して不当な扱いをしたと彼らが考える組織や問題に対して攻撃を続け、政府から違法ポルノサイトまであらゆるものを攻撃対象にしているとフォーチュン誌は伝える。FPは、アノニマスの活動はついには、以前より遊び志向ではなくなり、大義を志向するものとなった、と語る。

「アノニマスには彼ら自身の価値観があり、CIAやISと対立するかどうかを顧みず、それらを精力的に擁護しようとする」(フォーチュン誌)と、サイバーセキュリティー専門家ベン・フィッツジェラルド氏(米シンクタンク、新アメリカ安全保障センターの国家安全保障プログラムのテクノロジーディレクター)が語っている。その価値観にはどのようなものがあるのだろうか。

 1つは「自由で束縛されない情報の開示」があるようだ。FPによると、アノニマスは2010年、PayPalへの攻撃を開始した。ウィキリークスはその年、アメリカの機密情報書類(外交公電)を公表したが、その後、PayPalはウィキリークスの口座を使用停止にした。口座はウィキリークスの主要な活動資金である寄付の受付に使用されていた。

 また、人権問題にも目を光らせている。昨年、ミズーリ州ファーガソンで白人警官が黒人少年を射殺する事件があった後、大規模な抗議運動が行われたが、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」は、その抗議者に危害を加えると脅した。アノニマスはKKKに対する攻撃を開始し、今月にはそのメンバーとされる約1000人の個人情報をネットで公開した。

◆活動には賛否両論
 しかし、アノニマスの活動をめぐっては、賛否両論がある。フォーチュン誌によると、アノニマスは最大多数の最大利益のために力を尽くしていると言う者もいれば、活動を止めさせなければならない違法組織だと論じる者もいるという。

 上述のゲワーツ氏はCBSで、司法の審査や説明責任なしに、自分たちが敵と認識する相手を攻撃対象とするハッカー集団がインターネットを徘徊していることの危険性を警告している。「アノニマスは、私的制裁を加える組織といったところで、私たちも敵とみなす敵を選ぶ傾向はあるが、予期せぬ結果を引き起こしていたかもしれない条件反射的な反応に向かう傾向がある」と語っている。

Text by 田所秀徳