「ウーマノミクスは成功している」海外から評価 女性就業率が欧米より高いのは意外だった?

 アベノミクスの重要課題の一つに数えられる「女性の活躍」(ウーマノミクス)は、進んでいるのだろうか?10日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、日本の女性就業率はアメリカとユーロ圏平均よりも高いと指摘し、一定の成果を挙げていると評価している。ただし、相変わらず重要ポストは男性で占められているとも指摘。海外メディアの間では、ウーマノミクスが順調に進んだとしても、経済成長に与える効果がはっきりと数字に表れるまでには、まだまだ時間がかかるという見方が支配的なようだ。

◆重要ポストに占める女性の割合は最下位
 経済協力開発機構(OECD)が加盟34ヶ国の雇用情勢をまとめた「雇用アウトルック2015」によれば、日本の25〜54歳の女性の就業率は、71.8%で24位だった。トップはスウェーデンの82.8%、最下位はトルコの34.6%、加盟国平均は66.9%となっている。24位とはいえ、日本の近年の伸びは目立っており、OECDはウーマノミクスが「かなり成功を収めている」と評価する。

 WSJは、このデータを取り上げ、アメリカ(69.2%)と、ほぼ同率のユーロ圏平均よりも日本の方が女性就業率が高いという“意外な事実”に着目している。そして、「伝統的に女性にあまり社会進出の機会を与えてこなかったこの国は、変わろうとしている」「日本の大小の企業が、女性の雇用と登用に真剣になってきている」と、ウーマノミクスの成果に一定の評価を与えている。

 ただし、米コンサルタント会社のランキングによると、経営幹部などの重要ポストに占める女性の割合は、日本は8%で34ヶ国中最下位。アメリカは21%、ドイツは14%だった。WSJは、その実例として三菱UFJフィナンシャルグループの経営幹部が全員男性であることや、トヨタのトップ経営陣49人のうち48人が男性であることを挙げている。同紙は、その理由の一つに、日本企業で現在重要ポストに就いている人たちは1970年代後半から80年代に入社した人たちで、当時のキャリア入社組のほとんどが男性だったことを挙げている。「終身雇用と年功序列の慣習」が、女性の登用を妨げているという見方だ。

◆「アベノミクスはうまくいっている」
 では、女性の就業率上昇は、アベノミクス全体に好影響を与えているのだろうか?ニュヨーク州立大学ストーニーブルック校のノア・スミス准教授は、ブルームバーグ・ビューに寄せたオピニオン記事で、最近は多数派を占める「反アベノミクス」の欧米識者を批判しつつ、アベノミクス全体は「うまくいっている」と擁護する。

 スミス氏はその中で、ウーマノミクスをはじめとする社会改革も進んでいると評価する。ただし、それらは一夜にしてはっきりとした結果が出る性質のものではないとも言う。そのため、「たとえ最良のシナリオでも、すぐには数字に表れるほど大きく生産性を上げることはないだろう。やらなければならないことはまだたくさんあり、何年にも渡る努力と政治的クリエイティビティが必要だ」と、同氏は述べる。

 海外識者の間では、ウーマノミクスが成功すれば、大きな経済効果に結びつくという見方自体は依然、強いようだ。WSJは、「日本の男女格差が縮まれば、GDPが13%近く上がる」というゴールドマン・サックスの分析を紹介している。ただし、一方で同紙は、高齢化によるマイナス効果が女性の就業率上昇のプラス効果を打ち消しているという識者見解も取り上げている。

◆欧米の女性就業率低下という相対的な要素も
「日本の方が欧米よりも女性就業率が高い」というデータを、“意外な事実”と感じる向きも多いのではないだろうか?WSJの記事に掲載されているグラフによれば、安倍首相が就任した2012年以降、日本が欧米を上回り、カーブは急上昇を続けている。相対的に、アメリカは2007年ごろには現在の日本と同水準だったが、その後急降下。ここ数年は緩やかに戻してきているという状況だ。

 フォーブス誌は、大統領選の共和党候補のテレビ討論での発言を通じて、オバマ政権の女性政策を批判している。それによれば、テッド・クルーズ候補は、オバマ政権の「大きな政府」による介入主義的な経済政策は、労働者、特に女性たちを苦しめていると批判した。

 クルーズ候補は次のように述べている。「ヒラリー・クリントンとバーニー・サンダースら民主党員は、働く女性の苦境に対処したいと語る時、誰一人としてバラク・オバマのもとで、370万人の女性が貧困に陥っていることを指摘しない」「彼らの誰一人して、オバマ政権の大きな政府による経済政策のもとで、女性の平均賃金が733ドル下がったことに触れない」。フォーブス誌によれば、最新のアメリカ女性の貧困率は16.1%と、この20年間で最悪だった。また、貧困の度合いが強い“極貧率”は過去最悪を記録しているという。

Text by 内村 浩介