動物保護団体、韓国の食用犬100頭余を救出 「資金提供して転業促す」新手法に高評価も

 韓国で食肉用に飼育されていた犬100頭余が、国際動物愛護団体によって救出され、18日までにアメリカ・カリフォルニア州に到着した。犬たちは州内各地の団体支部を通じ、里親に引き渡される。今回のレスキュー活動は、食用犬の飼育から業種転換する資金の提供と引き換えに行われた。英BBCはこれを、西洋の価値観と韓国の食文化の対立を解決する有効な手段だと報じている。

◆業種転換資金と引き換えに全ての犬を救出
 今回の大規模レスキューは、国際動物愛護団体『ヒューメイン・ソサエティー・インターナショナル(HSI)』などの手で、韓国中部・忠清南道の“犬牧場”で行われた。そこでは100頭余の犬が、「不潔で狭いケージ」に閉じ込められていた。全ての犬が解放されてアメリカに送られ、この牧場は営業をやめた。

 HSIのコンパニオン・アニマル担当ディレクター、ケリー・オミーラさんは、「最初に犬たちの姿を見た時は、本当にショッキングでした。ここの犬たちは明らかに怯えていた。でも、私たちが傷つけるために来たのではないと知ると、しっぽを振り始めました」と語る。また、キティ・ブロックHSI副代表は、「HSIでは、これまでに186頭の犬を韓国の残酷な食肉市場から救出し、里親に引き渡している。まだ牧場に閉じ込められている犬たちのことを思うと、心が痛みます」と述べている(シンガポールの英語放送局『Channel NewsAsia』)。

 BBCによれば、牧場主は、HSIと法的拘束力のある合意を交わし、施設の閉鎖を受け入れる代わりに、補償金を受けて提示されたビジネスプランに基づいて農業に転換することを約束した。牧場主は、再び犬肉業界に手を出さないよう、監視下に置かれる。また、他の同業者にも犬の畜産をやめるよう呼びかけることを約束した。補償金の額は公開されていないが、犬舎の解体費用が2000ドル程度、業種転換費用を含めた総額が最大6万ドル程度ではないか、とBBCは見ている。

 救出された犬たちは、飛行機でサンフランシスコに送られ、そこからHSIの「特別行動チーム」によって車で各地のHSI支部や非営利動物保護団体「アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)」の支部に運ばれた。現地紙『LAタイムズ』は、17日にサンディエゴに到着した29頭の様子をレポートしている。大半は、マスティフ、珍島犬の雑種、チワワで、獣医の診察を受けた後、22日にHSIのメンバーと記者会見を行い、里親探しを始める。

◆文化の違いを乗り越えて「前進する道を開いた」
 サンディエゴHSIのゲーリー・ウィッツマン代表は「犬肉取引は、最も残酷な虐待の形の一つだ」と語る(LAタイムズ)。韓国では今も、年間200万頭の犬が食肉にされていると見られている。犬肉は伝統的に滋養強壮の源と考えられており、夏には3日間に渡る「犬肉祭り」が開かれて大々的に食される。また、犬肉エキス入の栄養ドリンクが、病院の近くなどで売られている。犬肉は「男性」を象徴する食べ物だという伝統的な考え方もあり、父親が息子に「成長の証」として「犬肉デビュー」させる習慣もある。

 こうした文化的背景から、韓国社会では欧米の活動家からの非難に対し、「自分たちも牛や豚、羊を食べているではないか。偽善だ」という反論がしばしば行われる。これに対し、今回のレスキューの実務を担った国際動物愛護団体『Change for Animals Foundation』設立者の英国人女性、ローラ・ウェバーさんは、自分はベジタリアンだと明かしたうえで、「他人が悪いことをしているからといって、自分がそうして良いということにはならない」と述べている(BBC)。

 ウェバーさんは、「私たちのゴールは、韓国の犬肉業界を終わらせることだ」としている。しかし、犬肉業界が一種の裏稼業となっていることが実態把握を難しくしており、それは困難なミッションだと言わざるを得ない。BBCによれば、韓国の“犬牧場”は、小規模な個人事業から比較的大規模な施設まで形態がさまざまで、全貌が把握しきれていないという。また、犬の畜産業は一種の「賤業」と見られ、「家族や地域社会から非難を浴びながら行われている」という実態があるようだ。

 こうした事情を俯瞰したうえで、BBCは、今回のレスキューを「膠着状態」を動かしたエポックメイキングな出来事だと見ているようだ。「資金提供して転業を促す」という新たな手法を、文化の壁を越えて「お互いが耳を傾け、前進する道を見つけた」と高く評価している。

◆残虐な屠殺が続く一方で愛護に傾く変化も
 欧米の活動家たちが韓国の犬食を強く非難する理由の一つに残虐な屠殺法がある。ソウルなどには犬肉市場があり、客はそこで生きた犬を選ぶ。そして、業者は電極を犬の口に突っ込み、感電死させる。ほとんどの場合、犬は即死せず、2度3度と電気が流される。それは、他の犬たちが閉じ込められたケージの目の前で行われ、「それを見た犬たちは心的外傷を受ける」とウェバーさんは主張する。また、以前は、犬を生きたまま吊るし、棒などで叩いてなぶり殺すという方法が取られていた。犬が受けた恐怖の分だけ、味が良くなると信じられていたからだという。「この方法がまだどこかで続いているかどうかは分からない」と、BBCは報じる。

 一方で、犬をペットとしてかわいがり、犬食を忌避する層も増えている。実際、犬肉市場の前で欧米人活動家らが連日行っている抗議活動には、韓国人も多く参加するようになってきている。

 韓国では、日本の「女子会」に相対する「男子会」が盛んだ。その中には「男らしい料理」の象徴である犬肉を食べる会も多いという。その一つに参加したBBCの記者によれば、グループの男性たちのほとんどが父親によって「犬肉デビュー」をさせられており、中には性器を食べさせられた人もいた。しかし、同グループは社会的な批判が高まっていることに加え、メンバー自身に忌避の意識が高まってきているため、今は犬食をやめ、韓国では犬肉に並ぶ滋養強壮食とされるフグ料理を囲むようになったという。BBCは、こうした若い層の変化を捉えて「時代は変わってきている」としている。

 また、BBCは、食肉市場関係者の本音にも触れている。それによれば、他の仕事があるのなら喜んでやめたいと考えている者も多いという。非難を浴び続けながらそれほど稼ぎの良くない仕事をするのは割に合わないのだろう。ある業者は次のように語っている。「もし、金銭的な援助があれば、犬肉市場全体を畳み、ペットを売る場所に変えたい。しかし、俺たちも日々の生活の糧を得なければならないんだ」

Text by 内村 浩介