遅れた認知症対策、欧米との違いは“住み慣れた環境でのケア” 新プランで実現急ぐ
日本の認知症者は予備軍も含めると800万人、高齢者の4人に1人に達する。この数字は欧米先進国に比べて高いが、2013年のOECDレビューが批判するとおり、欧米のように住み慣れた家や地域でケアを受けられる体制整備が遅れている。ようやく今年、政府は認知症対策総合戦略(新オレンジプラン)に乗り出した。一方、日本の医学チームが最近レビー小体型認知症を発見したように、脳神経医学では先進チームの仲間入りをしている。世界をリードする研究と立ち遅れたケア体制の隙間は、どう埋められるべきなのか。
◆今後10年で700万人に、住み慣れた環境で暮らせる社会を目指す
日本の65歳以上の高齢者人口は現在約3190万人、総人口の25%である。3年前の厚労省調査では、そのうち460万人が認知症患者で、今年1月の発表では、2025年には700万人に増えるとのこと。
6月19日に発表された『消費者白書』では、認知症の高齢者の家族からの消費トラブル相談が年間1万件近くある実態が報告され(朝日同日)、高齢ドライバーの4割が認知症の疑いがあり、12日成立した改正道路交通法は、事故防止のため免許返上を促している(朝日12、13日)。
こうした実情から、政府は警察庁・消費者庁・国土交通省等の関係省庁を総動員して、今年1月「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」を策定し、今後10年間を目標期間に、患者と家族と介護者を支援する地域ケアシステムづくり、予防・診断・治療・リハビリ・介護モデルの研究開発と普及促進等、国をあげて取り組むと打ち出した。中でも「認知症の人の意思が尊重され、住み慣れた環境で自分らしく暮らし続けられる社会の実現をめざす」と明記しているのは、従来の施策からの大きな転換である。
◆2014年OECDレビューは欧米に比べて対策が遅れる日本を批判
日本の認知症ケアは、病院や介護施設に収容するのが主流であるが、2013年1月に東京で「認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウム」が開かれ、イギリス、フランス、オランダ、デンマーク、オーストラリアの参加5ヶ国に比べて大きく遅れていると指摘された。参加5ヶ国の高齢化率は15%前後、認知症発生率は8%前後と日本より低いが、何より日本と違うのは、認知症が進んでもその人らしく住み慣れた家や地域で暮らし続けるのを、国家戦略で支えていることだった。とりわけフランスは2008年から5年間で16億ユーロ(1800億円)、認知症患者一人当たりに約45000円を投じて44の施策を講じていた。日本はその40分の1であった。
さらに2014年OECDの日本の医療レビューは、特に認知症患者を含む精神疾患での長期入院が多いことを問題として指摘し、ノルウェーやフランスなどの先進国の取り組みを参考にしながら、軽度から重度の段階まで、カウンセリングなど初期対応から系統立った治療・リハビリ支援を専門ケアワーカーの連携で行いながら、患者は日常生活を家庭や地域で継続できるように、包括的なシステムを整えていくべきと提案した。今年策定された「新オレンジプラン」はこういった批判や指摘を受けて、ようやく本格対策に乗り出した格好である。
◆進む医薬治療の研究開発、なお医療体制は課題
一方で注力されているのが、医薬による予防・治療をめざした研究開発である。成果の一つは、1994年に小阪憲司らによって発見されたレビー小体型認知症と、杉本八郎らが開発し、2014年に認可された治療薬ドネペジルである。脳神経生化学分野は世界中がしのぎを削っており、つい最近も頭蓋骨基底部の血管系でなくリンパ系の免疫機能が、鬱病や認知症の発症と関係する可能性が発見されたり(ガーディアン5日)、より高次な道徳的判断は脳内の灰白質を増やすことが発見されたりと(サイエンスデイリー3日)、認知症誘因である灰白質喪失を予防する可能性が期待されるなど、成果が相次いでいる。いずれ認知症の予防や初期段階での治療が可能になる日も遠くないかもしれない。
こうした成果を必要とする患者に最も合理的な形で提供するためにも、OECDが指摘した医療マネジメントのあり方は、改善されなければならない。「新オレンジプラン」の実行は待ったなしに必要である。