カナダ海岸でセシウム検出 福島第一原発由来か? 地元紙が詳報、「人体に影響はない」レベル

 福島第一原発から放出された放射性物質が、カナダ西海岸の海水から検出された。北米大陸沿岸の海水中から、直接海を渡ってきた福島の放射性物質が検出されたのは初めて。主な日本メディアも概要を報じているが、現地メディアや欧米メディアは、より詳しく調査の経緯なども伝えている。

◆「人体に影響はない」が・・・
 放射性物質は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州、バンクーバー島にあるユークルエレットという小さな町の港で、今年2月19日に採取した海水サンプルから検出された。検査を行った米・ウッズホール海洋生物学研究所の発表によれば、1立法㍍あたり1.4ベクレルのセシウム134、同5.8ベクレルのセシウム137を検出した。同研究所は、「そこで1年間毎日6時間泳いだとしても、歯科のレントゲン一回分の1000分の1以下の被曝量だ」と、人体や海洋生物への影響はないとしている(ロイター)。

 セシウム137の半減期は30年で、「核実験の結果として世界中の海で見つかっている」が、セシウム134の半減期は2年と短い。両者が同時に検出されたため、ウッズホール海洋生物学研究所は、時期的に福島から直接海を伝ってきたものだと断定した(カナダ紙『グローブ・アンド・メール』)。同研究所のケン・ベッセラー博士は「これは、間違いなく、事故によるものでは歴史上最悪の放射性物質の海洋放出だ。今後も注意深くモニタリングする必要がある」と述べた(ロイター)。

 ブリティッシュコロンビア州では、2011年の事故後間もなく行われた政府機関の調査でも、海草と海水から放射性物質が検出されているが、これは大気中から降り注いだものだと見られている。また、昨年11月には米カリフォルニア州北部の約150km沖合の海水から、微量のセシウムが検出された。しかし、福島の放射性物質が直接海水を伝って北米大陸に達したのは今回が初めてだという。

 モニタリング調査を主導したカナダの官民合同グループ『InFORM』代表のジェイ・カレン博士(ビクトリア大学・化学海洋生物学)は、カナダ西海岸のセシウム濃度は今年か来年初めにピークに達するだろうとしている。(『グローブ・アンド・メール』)。

◆官民一体のモニタリング調査
『グローブ・アンド・メール』などによれば、今回のモニタリング調査は、InFORMが主導し、ウッズホール海洋生物学研究所に検査を依頼した。InFORMは、カナダ政府、学会、NPOと、地域の市民ボランティアネットワークにより、昨年創設された。団体本部から毎月太平洋岸の14のコミュニティにいるボランティアにサンプル採取キットが送られ、海水を採取していたという。そのうちの一つから今回、初めて放射性物質が検出された。

 カレン博士によれば、600人以上の市民が活動に参加を表明したという。「私が公の場で話をする際、最初に受ける質問は太平洋と我が国の沿岸で採れる海産物の安全性についてだ。このプロジェクトは、海産物を食べたりすることのリスクを測定し、数値化する。それは、質問の直接的な回答となるだろう」と、同博士は『グローブ・アンド・メール』に答えている。

『グローブ・アンド・メール』は、「カナダへの影響は小さいと予想されるが、研究者たちはリスクを測るにはもっと情報が必要だとしている」と記す。InFORMは、ノバスコシア州・ダルハウジー大学の研究機関から3年間で63万カナダドル(約6060万円)の資金援助を受けており、今後もモニタリング調査を続けていく方針だ。

◆東電の「汚染水海洋放出の隠蔽」を環境系サイトが猛批判
 一方、環境保護や食の安全に関するニュースを保護派の立場から配信する米ニュースサイト、『Natural News』は、「東京電力が一年間に渡って福島第一原発の排水口から直接海に高濃度汚染水を廃棄していた事を隠蔽していた」と、東電や日本政府の対応を強く批判する記事を、今回のカナダでの発表の数日前に掲載している。

 批判の的になっているのは、福島第一原発2号機の原子炉建屋屋上にたまっていた高濃度放射性物質を含む汚水を、排水路を通じて外洋に直接放出していたという件だ。東電が今年2月24日に発表したが、少なくとも昨年4月までに把握していたにも関わらず、海洋放出を防ぐ措置を行わず、公表もしていなかったと、国内外のメディアの批判を浴びている。

『Natural News』は、「この驚くべき新事実により、TEPCO(東電)の信頼はまた失われた」と批判。漏洩を防げなかった事実は、東電がいまだに汚染水の貯蔵タンクを作ることに苦労している証拠だとしている。そして、それは安倍首相が2020年東京オリンピック誘致の際に述べた、福島は「コントロール下にある」という発言と矛盾すると指摘。国際オリンピック委員会(IOC)と世界への誓約を破ったとし、「この最新情報は、原子力規制委員会の規定に違反するか否かに関わらず、それ(首相の言う“アンダー・コントロール”)には当てはまらない」と記している。

 この海洋放出と今回のカナダ沿岸でのセシウム検出の因果関係は今のところ不明だ。しかし、こうした海外からの批判が今後さらに高まっていく可能性は否定出来ないだろう。

Text by NewSphere 編集部