少女の眼差しに変化? 奈良美智氏、香港で個展「無常人生」開催 海外メディア注目

 にらみつけるような目の女の子をモチーフにした作品で有名なポップアート作家の奈良美智。日本以外ではアジア初となる奈良氏の個展『Life is Only One』(無常人生)が香港で3月6日から7月26日まで開催されている。

 ニューヨーク近代美術館(MoMa)やロサンゼルス現代美術館に作品が所蔵されるなど、日本の現代美術を代表する奈良氏の個展は、海外でも注目されている。

◆Life is Only One
 個展『Life is Only One』を通して、奈良氏は何が伝えたいのか。「決して死ぬことがない精神がテーマ」と同氏はウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに答えている。尊敬するゴッホやマティスの様に、死んだ後も人々に愛されるような作品を作り上げることが目標だ。

 奈良氏の作品には悲しみがあふれている、とWSJは指摘している。幸福な時は人と一緒にいるのが好きで、絵を描こうという気が起こらないという同氏。自分と対話して、怒りや悲しみなどの感情を吐露したいのは、寂しい時だという。描くことで、自分の魂が昇華され、消極的な感情も消える。実際、制作意欲が最も高かった時期は、言葉が通じなくて寂しい思いをしたドイツ留学時代だった、と同氏はWSJに語っている。

◆東日本大震災と父の死
 半年に10枚以上のペースで作品を発表していた奈良氏だったが、甚大な被害をもたらした東日本大震災の後は、ショックで半年に一枚しか描けなかったという。奈良氏は、「アーティストとして、被災者のために何の助けにもなれない」と当時の無力感をAFPに語っている。

 震災から四年、自身の父の死も経験した奈良氏の個展『Life is Only One』は、同氏が死に対して抱く深い感情が反映されている、と香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙(SCMP)は指摘している。

 展示会の責任者であるドミニク・チャン氏によると、奈良氏の作品のモチーフである怒りとウィットに富んだまなざしの少女は、震災後、物静かで考え深い表情になったという。無邪気な少女が骸骨を握っている絵から始まる同個展の42作品のうち、20作品が新作、とSCMPは伝えている。

◆ミスター・スポックの耳
 今年2月には、奈良氏と親交のあった、『スタートレック』のスポック役で有名なレナード・ニモイ氏も亡くなった。奈良氏の作品のファンだった同氏は、スポックの耳を奈良氏にプレゼントしたことがあるという。
 
 奈良氏は、おもちゃの列車を自宅で走らせていたというレナード・ニモイ氏を「子供の心を忘れない、素晴らしい人生を送った人」とAFPに思い出を語っている。

 現在55歳の奈良氏は、ニモイ氏の様に死ぬまで最善を尽くす覚悟である。「人生の半分以上過ぎたけど、最後のラストスパートのためのエネルギーはまだ残しているから」と語った、とAFPは結んでいる。

Text by NewSphere 編集部