ベネチア・ビエンナーレ芸術監督に任命、アフリカ美術界の旗手コヨ・クオへの期待

コヨ・クオ|©RAW Material Company

 2026年に開催される第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の芸術監督(ヴィジュアル・アート部門ディレクター/キュレーター)に、アフリカ現代美術業界を代表するキュレーターの1人である、カメルーン出身のコヨ・クオ(Koyo Kouoh)が任命された。

◆予想に反した人選?
 ヴェネチア・ビエンナーレ会長のピエトランジェロ・ブッタフオコ(Pietrangelo Buttafuoco)は、クオはキュレーター、学者、そして影響力のある著名人であり、最も洗練された、若く、革新的な知性とのつながりを持っている人物であると評価。クオは任命に関して、「一生に一度の名誉である」としたうえで、「この展覧会が、現在私たちが生きる世界、そして何よりも私たちが作りたいと思う未来の世界にとって意味を持つものになることを願う」との声明を発表した。

 昨年11月に就任したブッタフオコ会長は、ジャーナリストとしての経歴を持つ人物で、右派のジョルジャ・メローニ首相の支持を表明する。伝統的な右寄りの考えを持ち、イタリアの歴史的な文化のアイデンティティを重んじ、ポリティカル・コレクトネス反対派だが、メローニ首相のようにポピュリズム的なアジェンダを展開するような人物ではないとガーディアンは分析する。

 一部の業界関係者の間では、ブッタフオコ会長がビエンナーレという文化プラットフォームをメローニのポピュリズムの道具にするのではないかという懸念や、支持派からの期待もあったようだ。アフリカ現代美術業界で活躍してきたクオの任命は、そうした考えをはねのける形となった。

◆ベテランキュレーターへの期待
 クオは、南アフリカにあるアフリカを代表する現代美術館、ツァイツ・アフリカ現代美術館(Zeitz MOCAA)のエグゼクティブ・ディレクター兼チーフ・キュレーター。2019年に就任し、2022年には黒人アーティストが描く黒人絵画を集めた展示『When We See Us』を開催し、話題を呼んだ。

 クオは、カメルーンに生まれ、スイスのチューリッヒで育った。2007年と2012年にはドイツのカッセルで開催される芸術祭「ドクメンタ」のキュレーションチームに参加。2008年にはセネガルのダカールにロー・マテリアル・カンパニー(Raw Material Company)を立ち上げ、以来、アーティスティック・ディレクターとして、アカデミー、レジデンシープログラム、展示などのプログラムを企画運営。2013年から2017年の期間は、アフリカ現代美術に特化した「1-54コンテンポラリー・アフリカン・アート・フェア」におけるレクチャーシリーズのキュレーターを務めた。

 『外国人はどこにでもいる(Stranieri Ovunque)』と題された前回のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展は、ブラジル出身のアドリアーノ・ペドロサ(Adriano Pedrosa)がキュレーターを務め、グローバルサウスの作家、原住民族の作家、LGBTQの作家、移住と脱植民地主義のテーマを扱った作品などに重きが置かれた。また、2023年に開催された第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で、ガーナ系スコットランド人のレズリー・ロッコ(Lesley Lokko)がキュレーターを務め、アフリカ系の実践者たちの活動に焦点が当てられたことも記憶に新しい。

 ヴェネチア・ビエンナーレだけでなく、欧米のアートシーンにおいて、「グローバルサウス」「脱植民地化」「アフリカの視点」といったようなテーマが取り上げられたり、アフリカ系や周縁化されてきたコミュニティ出身の人物がキュレーターなどに抜擢(ばってき)されたりするケースが増えている。これを一過性のトレンド、あるいは本質的ではない「(アフリカ)ウォッシング」だと批判的に見ることもできなくはない。しかし、そうではなく世界が着実にアフリカ化しているだけかもしれない。

 クオが手がける「国際」美術展に期待がかかる。

Text by MAKI NAKATA