北朝鮮が得る見返りとは? ロシアに兵士派遣、探る「生き残りの道」
北朝鮮の金正恩政権は、ウクライナ侵攻を続けるロシアに数千人と言われる兵士を派遣し、ロシア軍を援助している。北朝鮮が期待する見返りは何か。ロシアに対し、核・ミサイル開発技術の提供を求める算段がある、との見方がある。
◆米紙「見返りなしとは考えづらい」
ウクライナ派兵にあたり、北朝鮮に何らかの腹づもりがあることは明白だ。米ニューヨーク・タイムズ紙(10月24日)は、北朝鮮の派兵を報じるなかで、「国家元首が、見返りを期待することなく、他国の戦争に自国の兵士数千名を派遣することなどほとんどない」と指摘する。
同紙は具体的に、北朝鮮が短期的利益と長期的利益を視野に入れていると論じる。このうち短期的利益については、ロシアから各種の軍事技術の支援を求めると見られる。ミサイルの性能向上や核兵器開発における助言、ミサイル迎撃システムに対する突破技術の獲得、そして軍事衛星開発の支援などだ。加えて、老朽化した従来兵器の近代化支援や、資金・食料などの直接的な経済支援も期待している可能性がある。
派兵は、両国間で6月に結ばれた軍事協力合意に基づく。英テレグラフ紙(10月26日)は、同合意のもとで行われる今回の派兵により、北朝鮮がロシアから「金銭、軍事装備、ノウハウ」を引き出せるとの見方を示している。
◆北朝鮮が探る「生き残りの道」
一方、長期的視座からは別の思惑も見え隠れする。北朝鮮はアメリカやその同盟国から、核・ミサイル開発への圧力を受けている。ロシアと軍事同盟を強化することで、こうした圧力を無視できる「生き残りの道」を得ようとしているとの指摘がある。
ニューヨーク・タイムズは「プーチンとの友好関係によって、金正恩は核兵器保有国としての地位を確実なものにできる」と分析する。さらに「アメリカが主導する国際秩序に反発する国々の仲間入りを果たし、地域での影響力を高められる」と論じる。
アメリカの専門家は、米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対し、北朝鮮がロシアと新たな軍事同盟を結ぶことで、「アメリカやその同盟国に対する抑止力」を高められると指摘している。中長期的には、北朝鮮の核・ミサイル開発の自由度が広がる恐れがある。
◆韓国は警戒強める
ロシアと北朝鮮の結びつきは、周辺国の緊張を高めている。韓国政府は「深刻な懸念」を表明し、ロシアに対し北朝鮮との「違法な協力」を中止するよう求めている。韓国と北朝鮮は1950年代の朝鮮戦争後、正式の講和条約を結んでおらず、いまだ停戦状態が続いている。それだけに、北朝鮮の動きは韓国の安全保障上の大きな脅威となる。
テレグラフによると、韓国は北朝鮮の戦術を分析し、さらには捕虜から情報を引き出すため、軍事情報部隊をウクライナに派遣する構えだという。武器輸出国の韓国だが、これまで交戦中の国家への武器供与は控えてきた。だが、北朝鮮の兵士派遣をきっかけに、その方針を見直す可能性もある。
カーネギー国際平和財団のドラウディ・ベハレス氏は、ボイス・オブ・アメリカに対し、「第三国の地上部隊の投入により、ロシア対ウクライナの紛争が世界安全保障危機に発展する危険がある」と警鐘を鳴らす。朝鮮半島の緊張が高まるリスクがあるとベハレス氏は考えている。
北朝鮮とロシアの軍事的な絆が強まるにつれ、アジアや国際社会の緊張がさらに高まっている。