“安倍首相の勝利” 朝日の記事撤回、政治的雰囲気の変化が影響と英紙指摘
朝日新聞は11日「福島第一原発をめぐる吉田調書」に関する報道が誤りであったことを謝罪する会見を開いた。同会見では、先月8月に従軍慰安婦に関する報道が虚偽の情報源に基づいたものであったことを認めた点についても謝罪が行われた。
この2つの誤報が招いた一連の騒動に関し、海外メディアがそれぞれの意見を繰り広げている。
【原発派の勝利】
エコノミスト誌は今回の記事撤回について「東電と原発推進派の勝利」と報じている。
朝日新聞は、吉田調書の入手にあたって「職員が吉田所長の指示に背いて逃げた」という記事を書いた。朝日新聞は、政府が進めようとしている原発再稼働に反対の立場を取っている。エコノミスト誌はこの記事について「国が原発を再稼働しようとしていることへの攻撃だった」と分析している。
しかし結局、その記事は誤りであったことを他のメディアから指摘された。右寄りの報道勢は「勝ち誇ったように一面でそのことを伝えた」と同紙は伝えている。
【安倍首相も勝利】
フィナンシャル・タイムズ紙も、今回の騒動は「安倍首相にとって追い風となった」と報じている。
政府が朝日を撤回に向け動かしたという証拠はない。しかしこのタイミングは、とくに慰安婦問題に関しては、政治的雰囲気の変化に影響を受けていると言えるだろう、と同紙は述べる。
日本のナショナリズム派は、「朝日の自虐的に歪曲した記事が日本を貶めている」と批判し続けてきた。その声は、日本の誇りを取り戻すことを主眼に置く保守派の安倍晋三氏が首相になってから更に高まった、と同紙は言う。NHKの経営委員会に保守的な見解を持つ人物を据えることで「安倍首相の影響力は公共放送にまで及んだ」と伝えている。
【朝日は信頼を回復できるか】
ロイターは、「身から出た錆となった誤報により、朝日新聞135年の歴史の危機」と報じ、信頼を取り戻せるかどうかは疑問、との見解を示している。
同メディアは朝日新聞を「日本のニューヨーク・タイムズ」と伝えている。テンプル大学アジア研究学科ディレクターによると、「権力に立ち向かう声として信頼できる媒体、という理由で同紙を選択しているのが読者層の共通点」だという。
しかし、リベラル派としての存在が今回、危うくなってしまった。上智大学の中野晃一教授は「朝日新聞は今後、政府の方針に批判的な意見の編集に慎重にならざるを得ないだろう」と述べ、「安倍首相とその一派は、歴史の書き換えがよりやりやすくなった」と語っている。
朝日が信頼を取り戻せるかは今後次第、とロイターは言う。オンライン新聞「ディスパッチ・ジャパン」編集者のピーター・エリス氏は、「会社としての大きな危機。なんとか切り抜けるだろうとは思うが、簡単ではない」と同メディアに語っている。
朝日新聞元ソウル特派員が見た「慰安婦虚報」の真実 [amazon]