逮捕減らすよう警察に指示 刑務所過密に悩むイギリス

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 イギリスの全国警察署長評議会(NPCC)が、警察に逮捕の数を減らすことを求める書簡を送った。すでにイングランドでは、刑務所のスペース不足を理由に、囚人の早期釈放が行われており、事態のこれ以上の悪化は、公共の安全を脅かすと懸念されている。

◆刑務所は飽和 早期の囚人釈放も
 BBCによれば、NPCCからの書簡は「優先順位の低い逮捕」の一時停止を考えるよう各管区の警察署長に促すものだった。また、「刑事司法システム内の圧力を和らげる」ために、多数の逮捕者が出る可能性のある計画的な捜査を中止することも提案されている。

 イングランドでは、刑務所の過密状態を理由に、一部の容疑者の裁判を先送りして保釈する、「アーリードーン作戦」という緊急措置を5月15日から取っている。それ以前の昨年10月には、独房の空きを増やすため、一部の囚人の早期釈放制度が導入された。当初は18日までの早期釈放を認めていたが、3月には60日まで拡大、さらに5月23日には70日早く釈放する新たな制度が始まった。

 NPCCのギャビン・スティーブンス委員長は、市民の安全は確保していると強調。抗議活動やイベントの取り締まりを含め、市民の安全を守るために、逮捕が必要な人物はいつも通り逮捕されると述べた。

◆欧州3位の囚人の多さ 海外移送計画も
 ガーディアン紙によれば、イングランドとウェールズは、ロシアとトルコに次いで欧州で3番目に受刑者が多く、昨年9月29日時点で刑務所全体の収容能力8万8561人に対し、収容者は8万7793人だった。この数字は、2025年3月までに9万4400人、2027年までに10万6300人に増加すると予測されている。

 昨年10月の時点では、刑務所不足を緩和するため、与党保守党から海外の刑務所を借りて受刑者を移送するという案まで出ていた。しかし労働党は、この案こそ保守党が刑事司法制度を破綻に追い込んでいることの象徴だと批判した(ガーディアン紙)。

◆長期的に持続不可能 与党の不始末とも
 BBCによると、政府はパンデミックと法廷弁護士のストライキの影響が刑務所を圧迫している理由の一つだと説明しているが、労働党は、与党保守党の失策だとし、刑事司法制度の「不始末」をこれ以上続けることはできないと批判している。

 労働党のスターマー党首は、一部地域では、ストーカー行為や家庭内暴力で接近禁止命令を受けた者が釈放日を前倒しされていたと指摘。「囚人を70日早く釈放することで、我が国の安全性を高めることになるのか」と、スナク首相に質問した。これに対し首相は、重大な暴力犯罪、テロ、性犯罪で有罪判決を受けた者、つまり国にとって脅威となる人物は、この制度の対象にはならないと説明した。(スカイ・ニュース

 もっともNPCCの書簡は、囚人の早期釈放に関して、「警察活動にとって長期的に持続可能な選択肢ではない」とし、これ以上の悪化は「公共の安全を脅かす」と警告している。イギリスは7月4日に総選挙を迎えるが、どちらの党が勝利しても、抜本的対策が求められる。

Text by 山川 真智子