世界の30歳以下の億万長者15人、全員相続で 巨額の「富の移転」始まる

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 フォーブス誌が発表した今年の30歳以下の億万長者は、全員が親からの莫大(ばくだい)な遺産を得たことによるランクインだった。世代から世代へ引き継がれる富を持つ人が増えるほど格差は広がり、持たざる人々のチャンスが減ることにもつながるという。

◆若手起業家が枯渇? 世襲の富豪だらけに
 フォーブス誌は毎年世界の億万長者を発表しているが、今年の世界長者番付では、保有資産額が10億ドル(約1500億円)を超える富豪「ビリオネア」のうち最も若い25人は33歳以下となった。合わせて1100億ドル(約17兆円)の資産を有している。

 有名企業を築き上げて自力で成功した人もいる一方、大半は自力ではなく、30歳以下の億万長者では、15人全員が相続によるランクインだった。そのなかには、自動車ブランドなどを所有する企業の株式を、それぞれ推定49億ドル(約7500億円)分受け継いだアイルランドの27歳と25歳の兄弟や、高級サングラス会社の創業者の遺産を相続し、それぞれ47億ドル(約7200億円)の資産を持つことになった28歳、22歳、19歳の子供たちなどが含まれる。

 若い億万長者が遺産相続人ばかりになった理由の一つとして、起業した若手経営者の世代交代が進んでいないことをフォーブス誌はあげている。今年の最も若い億万長者25人のなかで初登場は、日本の実業家の佐上峻作氏(M&A総合研究所代表取締役社長)のみとなっている。

◆本格的富の移転開始 相続リッチが爆増か?
 ガーディアン紙によれば、スイスの銀行UBSの専門家は、今後20年から30年の間に、今日の億万長者のうち1000人以上が、5.2兆ドル(約800兆円)以上を相続人に譲渡することになりそうだと述べる。長期的に見れば、1990年代以降の起業ブームからもたらされた巨額の富は、億万長者ファミリーの次の世代のための基礎を築いたとも言えるとしている。

 今回の結果は、世界中の高齢化した人口の間で、長らく予期されてきた世代間の富の移転が始まったことを示すとフォーブス誌は述べている。アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)によれば、同国ではベビーブーマー世代とその親の世代(1964年以前生まれの人)が家計総資産の約65%を保有している。裕福な高齢者がこの世を去り、子孫に財産を残すことで、毎年何兆ドルもの財産の所有者が変わることになる。

◆逆転のチャンス減る… 格差と不平等拡大
 FRBのデータでは、アメリカでは2022年時点で遺産を受け取ったことのある世帯は全体の5分の1にすぎず、相続は稀なことだという。また、アメリカの下位50%、約1億2500万人が所有する富は、アメリカで最も裕福な8人が所有している金額というデータもある。(ウェブ誌『Vox』)

 Voxは、富の不平等が大きいと世代間の流動性が低くなるという調査結果を紹介。本当に裕福な人々が多く存在すると、一般の人々は親よりも経済的に苦しくなるとし、「富の格差がある状況では、成人後の成功を決定するうえで、家族環境がより強い役割を果たす可能性が高まり、それに応じて本人の努力の役割は弱まる」という、あるエコノミストの研究に言及している。

 不平等の一例としてあげられるのが教育だ。裕福ではない家庭の子供は名門大学に進学できる成績を収めていたとしても、高報酬で受験コンサルタントを雇え、大学に多額の寄付ができる裕福な家庭の子供にチャンスを奪われる可能性がある。アメリカでは超リッチな家庭が爆発的に増えており、持たざる者の経済的成功のチャンスのハードルは、上がり続けていると言える。

Text by 山川 真智子