全財産をかけ映画「復讐のワサビ」を制作したインド人が、日本人に伝えたいこと

無名のインド人監督、へマント・シンさんが手掛けた全編日本語による映画『復讐のワサビ』が、2024年2月9日より東京・シモキタ – エキマエ – シネマ「K2」ほか全国順次公開となります。

これに伴い同年2月6日、都内にて先行上映会及びQ&Aセッションが開催され、監督のへマント・シンさんの他、本作に出演する俳優の小池樹里杏さん、野村啓介さんが登壇しました。

「復讐のワサビ」監督はリアリティ番組出演経験のあるインド人

左から野村啓介さん、小池樹里杏さん、ヘマント・シン監督

監督のへマント・シンさんは、インドのリアリティ番組出演をきっかけに俳優の道へ進み、その後、独学で映画制作を学びました。

『復讐のワサビ』は、へマント・シンさんのデビュー作品です。

ヘマント・シン監督

ストーリーは、顔の傷が原因で子供時代から執拗ないじめを受けてきたカノが、運命が織り成す様々なシナリオの中で、次々と展開する出来事に導かれ、貧しい村の生活から抜け出すというもの。

しかしカノは過酷な道を行くことを強いられ、人生の軌道は永遠に変わってしまうことに……。

Q&Aセッション冒頭、へマント・シンさんは「監督のへマント・シンと申します。本日は映画をご覧いただきありがとうございました。この映画は、私が初めて作った作品です。皆さんに見ていただけたことは、私にとって本当に意味のあることです。改めて、感謝いたします」と日本語で挨拶。

いじめを防止したいという思いから、今回の作品制作に至ったというへマント・シンさん。

いじめをテーマに選んだ経緯については「長編で何をテーマに撮りたいかはっきりしていなかった部分があるのですが、コロナ禍で動画を見ていたときに、ニュージーランドの子供が作ったいじめに関する動画が心に引っ掛かりました」と明かしました。

「復讐のワサビ」俳優が語る作品の見どころ

続いて、俳優の2人が初めて脚本を読んだ時の感想と、自主制作映画である本作に出演しようと思ったきっかけについて、トークを展開。

主役のカノを演じた小池樹里杏さんは次のように振り返りました。

小池樹里杏さん

「脚本を読んだ時は、自分に当てはまっているところがたくさんあると感じました。

私はフィリピンのハーフでいじめを受けたこともあるし、見た目は日本人ですが、性格は大胆でポジティブとフィリピン人要素が強いので誤解を受けたことも。そういったいじめの経験を思い出しました」

さらに、「プロデューサーの松本さんと監督のへマントとは、別のお仕事でご一緒したことがありその時から意気投合。

2人が映画を作りたいという夢を0から相談していただいたので、それを実現させてあげたい思いと、作品に対する思いが一致したことから、一緒に戦うと決めた次第です」と出演背景を語りました。

一方、ヒロを演じた野村啓介さんは「台本を読んで感じたのは、この映画で家族となっている人たちはみんな孤独な人たちだということ。

野村啓介さん

それは、差別を受けたり貧困に直面したりする環境によって、犯罪に流されてしまうこともある。

僕が演じたのは、唯一その流れを止めようとしていた役だと思いますが、断り切れずに流されてしまうところは、実際の自分に置き換えると恐怖を感じました」と心の内を明かしました。

出演を決めた理由については「僕は演劇を長いことやってきたのですが、コロナで演劇ができない分の映像作品を探していたんです。

今作の募集をみて、インドから来た監督が日本で映画を撮るということ自体を刺激的に感じ応募。

オーディションの際は、別の役を希望していたのですが、監督から、どうしてもヒロの役を野村さんにやってほしいと熱くお願いされて。

最初は自信がなかったけど、やり遂げられたのですごくホッとしています」と話しました。

へマント・シン監督が「復讐のワサビ」に込めた想い

本作品は、へマント・シン監督が「日本の映画界に一石を投じるべく全財産をかけて撮影した」という映画。

その意図について質問を受けると、へマント・シンさんは「私は7年間日本に住んでいて、日本の映画がとても好きです。

ただ、十分に知識があるとは言い切れないことを前提として、日本の映画には、穏やかで綺麗にまとまっている印象を持っています。

どちらかというと、一石を投じるというよりは、貢献したい。

リスクを取ったストーリーに取り組みたいですし、ありがちなものではなく、よりメッセージ性やエンタメ性が強い作品を作りたいと思っています。

それは、自分に課したチャレンジとも言えますね」と、穏やかに説明しました。

先行上映会及びQ&Aセッションには、登壇した2名以外のキャストであるふじわらみほさん、井上雄太さん、河辺ほのかさんらも参加。

会見途中には、登壇者から話を振られたキャストがにこやかに応答している場面も見られ、制作チームの仲の良さも伺えた会見となりました。

Text by 吉田真琴