北朝鮮核問題、元米国防長官が語る現実的な解決策とは 「今が最後のチャンス」

 北朝鮮は故金日成主席の生誕記念日である「太陽節」の翌日16日に弾道ミサイルを発射した。ミサイルは発射直後に爆発したため、アメリカはこの件に関しては静観しており、今のところ軍事行動は考えていないと発言している。強気な発言をしているトランプ大統領だが、識者は実際には経済制裁、外交交渉でしか北朝鮮問題は解決できないと見ており、中国、韓国の協力が必要だとしている。

◆歴代政権も苦慮。タイミングを逃した北への対応
 ロイターは、トランプ大統領は最近のミサイル実験に対して厳しい言葉を発しているが、北朝鮮問題への対応の選択肢は経済制裁、秘密工作、外交交渉、軍事行動の4つに限られているように見えるとし、これまでの政権も対応に苦慮してきたと述べる。

 政治誌ポリティコに寄稿した元米国防長官、ウィリアム・J・ペリー氏は、今が外交で問題を解決する最大のチャンスだと主張する。同氏は、クリントン政権は1994年、寧辺の核開発施設に対する軍事攻撃を計画していたが、米朝枠組み合意(北朝鮮が核開発を凍結し、軽水炉に置き換え、米朝関係を正常化する内容)の実施で回避されたと述べる。その後も核開発は続いたため、2期目に入ったクリントン政権でペリー氏は、日韓と協力して国交正常化をする代わりに核開発をあきらめさせるという外交努力をした。しかしクリントン大統領が任期切れとなり、次のブッシュ(子)政権が北朝鮮に対立的な姿勢を強めたため、核開発問題解決の貴重な機会が失われてしまったと悔やんでいる。

◆正恩氏を見くびるな。今が核放棄最後のチャンス
 ペリー氏は、実は北朝鮮のリーダーたちは「気違い」では決してなく、彼らの目標は金王朝の維持であるため、必ずアメリカの返り討ちにあうことが確実な核攻撃を自ら仕掛けることはないと主張する。この点では、ガーディアン紙に寄稿した米中関係センターのシニアフェロー、アイザック・ストーン・フィッシュ氏も同意見で、実は核をちらつかせて欲しい物を手に入れるやり方は非常に戦略的、経済的に理にかなっており、正恩氏を「狂っている」と過小評価してはいけないとしている。

 むしろ心配すべきは、北朝鮮の挑発によって韓国が軍事行動を起こし、これが拡大してアメリカを巻き込んだ戦争に発展することだとペリー氏はいう。北朝鮮が負けを確信すれば、やけになって核兵器を使いハルマゲドン到来ということにもなりかねないからだ。幸いなことにこれまでの口だけだった政権とは違い、トランプ大統領はシリアを空爆し、朝鮮半島に空母を派遣するなどの軍事行動で北朝鮮の計算を狂わせている。このチャンスを使って北朝鮮を交渉のテーブルに着かせられなければ、もう後はないとペリー氏は見ている。

◆中国の協力は不可欠。韓国にも注意を
 ペリー氏は、北朝鮮の態度を変えさせるには、これまでにない強力な経済的メリットとデメリットの両方を示し、核なしでも現体制を維持できると分からせる戦略を取ることだと主張する。そのためには物資を絶つことで北朝鮮に経済的打撃を与えられる中国がカギになると見ており、中国と協力し、問題解決を図るべきだとしている。中国は制裁にはこれまで消極的だったが、このところ北の脅威は中国の核心的利益に反するようになっているため、これまでよりは協力を得やすいと同氏は見ており、中国に責任を取らせるのではなく、新たな北朝鮮対策の構築や実施において、アメリカのフル・パートナーにすべきだとしている。

 上述のストーン・フィッシュ氏は、ここで注意すべきは韓国だとしている。同氏は、北朝鮮は危険なふるまいをすることで、中国、韓国を利用しており、特に「静かなピョンヤン」を望む韓国から搾れるだけ搾り取ろうという態度をこれまで取ってきたと述べる。2015年の李明博元大統領の回想録によれば、2国間サミット開催のための2009年交渉で、北朝鮮は物資の他に経済開発銀行設立の元金にと称し、100億ドル(約1.1兆円)を要求してきたという。結局李氏はこの要求を拒んだが、金は北朝鮮上層部に配られるはずだったと見ている。韓国と韓国企業は南北経済協力事業の一つである開城工業団地にも多額の出資をしているが、閉鎖後の2016年2月の発表では、韓国統一省は賃金やその他の支払い目的で出した金の7割が北朝鮮の核開発と正恩氏のための贅沢品に使われたとしている(ガーディアン紙)。

 結局韓国は、金を北朝鮮に提供する形となっているとストーン・フィッシュ氏は指摘し、北朝鮮への関与政策に賛成する人物が5月の大統領選で当選し、韓国から金が渡されることにでもなれば経済制裁を害することになるとしている。

 マクマスター米大統領補佐官は、中国と同盟国とともに、アメリカは北朝鮮への対応に取り組んでいると述べている(ロイター)。今や待ったなしの北朝鮮問題においては、異なる事情はあれど、各国の歩み寄りが必須だろう。

Text by 山川 真智子