人間の仕事を奪うロボットに課税すべき…ビル・ゲイツ氏の主張とは

 マイクロソフトの創業者であり大富豪のビル・ゲイツ氏が、ロボットが近い将来多くの仕事を肩代わりすることに関し、人間の労働者と同程度の所得税を、その所有者または生産者を通じて課すべきだと述べている。自動化の波は今後急激にやって来るという同氏は、そのインパクトに対処するため、政府はロボット税を原資にして自動化社会への移行期間をうまく乗り切らねばならないと提言している。

◆押し寄せる自動化の波。ロボット税で対応
 ゲイツ氏は、ウェブ誌『クオーツ』のインタビューに答え、ロボット税は雇用維持のために使われるとしている。ロボットの導入で、工場労働者、運転手、レジ係などの仕事をしていた労働者は解放されるが、彼らの労働力は高齢者介護や子どもの教育など、より人間に向いた仕事へ振り分けられるべきで、そのトレーニングなどへの財政的援助にロボット税が活用できるということだ。そしてそのようなプログラムはビジネス界に頼るのではなく、政府が監督しなければならないと主張している。

 ちなみに欧州議会はゲイツ氏に先立ち、来るべきロボット社会に備え、ロボットにも課税すべきという報告書を出していた。ロボットが人間の雇用を奪う時代が来れば、その所有者は税か社会保障費を支払うべきだとし、ベーシックインカムや生活保護プログラムなど、失業に対する保護の創設も提案されていたという(CNN)。クオーツによれば、EU議会では失業した労働者が職業訓練を受けられるようロボットの所有者に課税することが検討されたが、2月16日に否決されている。

◆生産に課税はできない。自動化はこれまでのイノベーションと同じ
 ゲイツ氏の考えに賛成できないと言うのが、フォーブス誌に寄稿した、アダム・スミス研究所のフェロー、ティム・ウォーストール氏だ。同氏は、ゲイツ氏は労働者の生産に課税しているのだからロボットの生産にも課税すべきと主張しているが、実際は労働者の収入と消費に課税はしても、労働者の生産には課税していないと述べる。ロボットが働き自動化されれば、仕事を奪われた人は別の活動を行うはずで、それによって生産は増加し、収入も消費も増加するはずである。つまり、収入と所得に課税し続ける限り、必要な税収は得られるのだと説明する。

 例えば、コンピューターやマイクロソフト社の製品は、多くのタイピストや会計係の仕事を奪ったが、生産性は上がり、皆が豊かになった。以前の仕事から解放された人々は別のものを生産し始め、それを我々が消費し、生産する人も収入を得るようになった。この時コンピューターにもそれを動かすプログラムにも課税はされなかった。経済の視点で見れば、それらは今話題になっているロボットと同じで、ただの自動化の一形態だと同氏は主張する。増えた生産は、定義上、だれかの収入になり、消費になる。ロボットに収入はなく、消費もしない以上、今まで通り課税は人間(企業は資本家と見る)だけにすべきという考えだ。

◆税より厄介なのは抵抗。テクノロジーの広がりを阻害
 これに対しゲイツ氏は、今後20年のうちにさまざまな仕事がロボットにあっという間に置き換えられるだろうとし、その勢いをいくらか抑え、より広範な移行をうまく成し遂げるために時間をかけるという意味でも、ロボット税の導入は必要だとしている。

 同氏は、自動化社会への最も大きな障害は人々の抵抗だと見ている。イノベーションへの期待より、それによって起きることへの不安の方が大きいのなら、自動化は広がらないと考えており、自動化の流れに制約をかけられるよりは、課税で対応するほうがよいと述べている(クオーツ)。フォーチュン誌は、もし自動化が明らかに社会のすべてのメンバーに恩恵をもたらすものではないのであれば、必ず強硬に反対する人々がテクノロジー抑制の動きを作り出すことになってしまい、そちらのほうがロボット課税よりずっと厄介だと述べている。

 フォーチュン誌は、グローバル化の恩恵が平等に行き渡らないことで、壁を作ったり関税をかけたりすることを支持する人々が政治的に復活しているとし、うまく自動化を展開していかなければ、同様の力が働くであろうと述べている。

Text by 山川 真智子