「パンをおかずにパン」はアリ! 驚きのフランス人のバゲット愛、ついにU字型を生む

 フランスを代表するパンと言えば、バゲットだ。細長い見た目が表すように、フランス語で「杖、棒」を意味する。フランスの街を歩けば、必ず1人は小脇にバゲットを抱えて歩く人に当たるといわれているほどポピュラーなパンだが、そのバゲットへのフランス人の愛情にも、このところ変化がみられると英仏メディアが報じている。

◆バゲット大好き。知られざるフランス式食べ方
 仏ウェブメディア『The Local』は、バゲットは非公式なフランスのシンボルだと表現し、フランス人の生活には欠かせないものだと述べる。フランス人のバゲット愛は深く、だからこそ、外国人には理解できないフランス人ならではのバゲットの食べ方があると、いくつの興味深い例を紹介している。

 The Localによれば、フランス人は大量の厚切りバゲットにバターとジャムを塗ったものを紅茶かコーヒーに浸して食べるらしい。彼らのコーヒーカップの底に、まったりと甘いジャムの塊とパンくずが残っているのを見て、外国人は困惑の表情を浮かべるという。

 パンにチョコレートクリームを塗る人は多いが、なんとフランスではバゲットに板チョコの組み合わせが愛されているという。しかも、子供ではなく大の大人が、四角い市販の板チョコをバゲットにガッツリはさんでかじりつくのだそうで、即席のチョコパンといったところだ。そしてかじりつくと言えば、フランス人の頭に浮かぶのは出来立てのバゲットだそうで、買ってから家に帰るまで待てず路上で、温かく新鮮なバゲットの端っこをガリガリとやってしまうらしい(The Local)。

 さらに、シンプルな味のバゲットは、どんな料理にでも合うと思われている。フランスでは、クロックムッシュなどのパン・メニューをレストランで注文しても、小さなバスケットに入ったバゲットのスライスがお供に出て来るということだ。日本でいうと、牛丼にライスが付いてくる感じだろうか? ラーメンにチャーハン、お好み焼きにご飯などの「ダブル炭水化物」に対して日本では賛否両論あるが、「パンにパン」への答は常に「ウィ」だとThe Localは一蹴。これは失ってはならない最も称賛に値する食の伝統の一つだとしている。

◆食生活の変化? 消費量は減少
 愛されているバゲットだが、フランスでのパンの消費量は減りつつあると英インデペンデント紙が報じている。フランス製粉協会の調べによれば、2015年にフランス人が消費したパンは1日当たり120グラムで、2003年から30g減り、1950年と比較すると3分の1に減っているという。

 原因として第一に上げられるのが消費者の意識の変化で、炭水化物の取りすぎや、グルテンフリーを気にする人が増えたことが、パンの消費に影響しているという。その他にも、パン中心の朝食をゆっくりとる時間がなくなったという生活習慣の変化や、パンの値段が高くなったことも理由のようだ。

◆伝統か利便性か? バゲットも変わらなきゃ
 こんな状況に危機感を抱いてか、パンの消費量を詳細に記録し、1日1度はパン屋に立ち寄ることを提唱するロビー団体などもフランスには存在する。また、味、香り、焼き具合はもちろん、既定のサイズに合った「完璧なバゲット」を選ぶ大会なども毎年開催されており、文化を守ることに力が注がれている(The Local)。

 大会の規定では、バゲットの長さは、55-65センチとされているが、買い物袋からはみ出る、自転車のかごに載せづらいなど、長さに不便を感じるフランス人も多いようだ。そこに目を付けた西フランスのパン屋が、U字型のバゲットを販売し、SNSで話題を呼んでいるとテレグラフ紙が報じている。

「自転車乗りのためのバゲット」と呼ばれるこのバゲットには、フェイスブックで5300以上のライクが付き、国内のメディアでも取り上げられ、なぜこれまでなかったのかと絶賛されている。もっとも伝統を重んじる人々は驚きを隠せないようで、「長さで勝っても幅では負けている」、「ただのマーケティング」などと否定的な意見も出ているようだ(テレグラフ紙)。

 ちなみにU字型バゲットは普通のものより5セント(約6円)ほど高いとのこと。発案したパン職人は、「100本のバゲットを曲げることを想像してみて。時間がかかるから」とコメントしている(テレグラフ紙)。

Text by 山川 真智子