「VHS復活」「兵士が瞬間移動」公共放送局も陸軍も真剣「ネタ」 世界のエイプリルフール

 エイプリルフールといえば、年に一度、嘘をついていい日だ。日本では一部の「ノリのいい」企業を除き、個人レベルで冗談を飛ばす程度で何気なく過ごしてしまう1日だが、欧米ではメディアや大手企業などがこぞって、「エイプリルフール・ネタ」に真剣に取り組む1日となる。今年のエイプリルフールにはどんな「ネタ」が飛び出したか、ご紹介しよう。

◆エイプリルフールのネタといえばBBC
 そもそもエイプリルフールとは何か。諸説あるようだが、ヨーロッパでは1582年にカトリックの国を中心にグレゴリオ暦が導入され、新年はそれまでの4月1日から1月1日に移動された。それを知らなかった人たちが、4月1日に新年の祝いで馬鹿騒ぎをしたことから始まった、という説が一般的のようだ。

 毎年4月1日にいたずらをしかけるようになったのは、1700年代のイギリスとされている。さらにメディアがネタに取り組むようになったのは、英国放送協会BBCが草分けの1つと言われている。今でも伝説的に語られるのが、1957年にテレビ放映された「スイスのスパゲティ農家」だ。現在も続いている硬派な時事番組『パノラマ』の1コーナーで、スイスの農家がスパゲティを収穫している様子が数分にわたり紹介されたのだ。放送後に視聴者から、「スパゲティのなる木はどうやって育てるのか?」という問い合わせもあったという。

 ちなみにBBCの今年のネタは、「BBCストア・ビデオ」だった。通常、BBCで放送された番組は「BBCストア」からオンラインで購入してダウンロード出来る。しかしBBCは、「アナログ・レコードの人気が復活したということは、VHSビデオも復活するだろう」と考え、VHS版を自宅に配送するサービスを始めたというのだ。サービスを紹介する専用ウェブサイトには、「外出先でも楽しめます」として、公園のベンチで大きなブラウン管のテレビを楽しそうに見つめる女性の姿が掲載されている。「無料トライアルはこちら」というバナーをクリックすると、「エイプリルフールでした。BBCストアでの50%割引をお楽しみください。ご購入の際にはクーポンコードJUSTKIDDING(単なる冗談)を入力ください」と書いてある。50%割引まで冗談なのかと疑ってしまうところだ。

◆2016年の秀逸ネタは?
 他にも、こんなネタが注目を集めた。ホンダは、英国向けウェブサイトで、「絵文字ナンバープレートをイギリスで導入」と題したニュースリリースを4月1日付で公開した。リリースによると、若年層を中心に絵文字の人気が根強いことから、世界初の絵文字ナンバープレートをシビックで展開することにしたという。さらに、ホンダUKの「ファースト・オフィサー・オブ・ライセンシズ」という肩書きのShigatsu Baka氏の、「楽しく奇抜に車をカスタマイズできる方法をお客様に提供できて嬉しい」という談話を紹介した。Shigatsu Baka氏の名前に隠された秘密が分からない英語圏の人には、エイプリルフール・ネタとは一見分からなかったかもしれない。

 また、世界的に展開するサッカー情報サイトGoal.comはイギリス向けページで、「メッシ、レアルマドリードと5億ユーロで契約」というニュースを掲載した。13歳からバルセロナでプレーし続けてきたメッシが、「お金だけ」の理由で、ライバルのレアルに移籍を決めた、というニュースだ。ただし、記事の最後は太字で「ハッピーな4月1日を!」と結び、ファンを驚かせない配慮をしていた。

 エイプリルフール・ネタに真剣に取り組むのはイギリスばかりではない。アメリカ陸軍は公式ホームページで、「兵士のテレポーテーションに成功」と写真付きで発表した。「この技術があれば、アメリカ国内から世界どこでも部隊を瞬時に派遣できるため、将来的に海外の米軍基地を廃止できるだろう」としている。

◆グーグルは謝罪するはめに
 グーグルは今年もいくつかのエイプリルフール・ネタを披露した。しかしそのうちの1つは、苦情が殺到したために途中で中止するハプニングに見舞われた。Gmailの送信ボタンの横に「マイクドロップ送信ボタン」を設置し、送信者がそれを押すと自分のメールとともにミニオンズのコミカルなGIFが相手に届き、それに対する返信はすべてブロックされる、というものだった(マイクドロップとは、ラッパーが自分のラップを決めた後にマイクを床に落とすパフォーマンスから転じて、議論を終わらせるような決め台詞や議論の終わりそのものを指す)。しかしこのボタンを使って原稿を送ってしまったというフリーランスのライターや、会社の人事に応募書類を送ったという求職者など、実害を受けたという苦情がグーグルに寄せられ、グーグルは「笑いよりも頭痛を引き起こしてしまいました」と謝罪を発表。このボタンは撤去された。なお、法人向けのGmailにはこの機能はもとから付けていないとしている。

◆エイプリルフールの場は伝統的メディアからネットメディアへ
 かつては、企業がエイプリルフール・ネタに取り組む場合、ネタを新聞の広告欄に掲載するなどしたため、コストがかかった。例えばバーガーキングは1998年のエイプリルフールに、「左利き向けワッパーバーガーの発売開始」という全面広告を全国紙USAトゥデイ紙に掲載した。全国紙の全面広告の広告料は相当額だったに違いない。

 しかしネット時代の今、作り方次第では、それほどコストをかけずに自社サイトやSNSでも発表できるようになった。そのため、エイプリルフールのネタ合戦はますます活発化しているように思える。楽しいネタを作れば拡散され、企業の宣伝にもなるし企業イメージも上がる。しかし、グーグルの失敗例からも言えるように、「実害を出さないネタ」であることや、「誰も傷つけない嘘」であることは、「愛されるエイプリルフール・ネタ」の鉄則だろう。

 さて来年はどんなネタが飛び出すだろうか。今から楽しみなところだが、もしもあなたが企業の広報部などにお勤めなら、作る側に回って、企業イメージアップに向けたネタを来年に向けて今からじっくり考えてみるのもいいかもしれない。

Text by 松丸 さとみ