トランプ氏指名阻止には混戦のままがいい?主流派はブローカード・コンベンションに望みか

 アメリカ大統領選の行方を占う最も大切な日の一つとされる3月1日のスーパー・チューズデー(予備選・党員集会の集中日)で、共和党はドナルド・トランプ氏が11州中7州を制し、圧倒的強さを見せた。トランプ氏指名がますます現実味を帯びてきたことで、党内には不協和音が生じており、党分裂の危機だという声まで聞こえ始めた。

◆読みを誤った共和党指導部
 共和党においては、事実上戦いはトランプ対反トランプとなっている。ワシントン・ポスト紙(WP)によれば、スーパー・チューズデーでトランプ氏が楽勝したことに、共和党主流派の危機感はより強まっている。

 WPによると、主流派が最後の望みを賭けるのは比較的穏健なマルコ・ルビオ氏だが、同氏はミネソタ州で1勝を上げたのみ。皮肉にも党指導部には人気のない保守強硬派のテッド・クルーズ氏が、地元テキサスを含む3州を制し、リンジー・グラハム上院議員がいうように、「トランプを止める唯一の方法としてクルーズに集結」という気乗りのしない選択さえ迫られているのが実情らしい。

 米政治メディア『Politico』は、どうせトランプ氏は自滅するだろうと見ていた保守本流の読みが甘く、対策が遅れたことを指摘。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、共和党のジレンマは、どの候補がトランプ氏の好敵手として最良かという点でコンセンサスがないことだとし、すでに誰かが抜け出すには遅すぎるかもしれないと述べている。

◆党分断の危機も?
『Politico』は、共和党のエリートが党をコントロールする時代は終わったと述べ、トランプが勝ちを増やすなか、党内のトランプ派と反トランプ派の距離は計り知れなく広がっていると述べる。

 すでに選挙戦からの撤退を表明した、ニュージャージー州知事のクリス・クリスティ氏などが、次々とトランプ氏支持に回ったことは、トランプ氏が党の「新表看板」になりつつあることへの、保守派における容認が広がっていることを示すと『Politico』は指摘。その一方で、絶対にトランプ氏支持には反対で、もし同氏が指名されれば、第三の選択も辞さないという議員や党員もおり、ヒラリー・クリントン氏に投票するという声も聞かれる(NYT)。

 党内に生じた文化的、イデオロギー的裂け目の修復には時間がかかるという指摘があり、さらにトランプ氏が共和党大統領候補に指名されれば、次の4年間の民主党政権を保証することになると、多くが懸念しているという。ボストンカレッジのヘザー・コックス・リチャードソン教授は、党を二つに割る激しい亀裂が生じることを予測。保守強硬路線と昔ながらの穏健な共和政体主義の系統に分かれ、非常に醜いことになるだろうと述べている(NYT)。

◆混戦は、実は最大のチャンス
 エコノミスト誌は、予備選の今後について、3つのシナリオを提示している。第1は、このままトランプ氏が逃げ切るパターンで、今のペースでいけば、指名獲得に必要な過半数1237人の代議員を5月末までに獲得できるという。

 次は、どの候補者も過半数を獲得できず、7月の全国党大会を迎えるパターンだ。この場合、「ブローカード・コンベンション(協議と代議員の複数投票で決める方法)」となり、だれが選ばれるかははっきりしない。政治経済イベントの予測をする『PredictIt』によれば、ブローカード・コンベンションの可能性は23-37%とのことだ。

 最後のシナリオは、トランプ氏以外の誰かが7月前に抜け出す場合だ。もっとも期待されるのはルビオ氏で、他の候補が撤退すればトランプ氏相手によりうまく戦えるという意見もあるが、撤退した候補の票がすべてルビオ氏に流れるとはいえないとエコノミスト誌は指摘。また、3月15日に予備選を迎えるルビオ氏の地元フロリダは、勝者が代議員総取りとなる州であるものの、最近の2つの世論調査ではトランプ氏優勢と出ており、これを落とせばルビオ氏に弁解の余地はなくなるという。

 結局のところ、多くの候補が残ることで、トランプ氏の過半数獲得を阻むことにつながり、長期的にはルビオ氏を利することになるかもしれない、とエコノミスト誌は見ている。もしもルビオ氏が本当に保守本流の本命であれば、ブローカード・コンベンションでは一番人気となり、混戦となっている現状が、実はトランプ氏指名阻止の最大のチャンスかもしれないと述べている。

Text by 山川 真智子