“南シナ海問題に首を突っ込むな” 武装船で領海侵犯を繰り返す中国、狙いは日本への警告か

 中国が南シナ海や東シナ海で軍事的圧力を強めていることを示すニュースが、連日のように報じられている。中でも、日本に直接的な影響を与える可能性が最も高いのは、中国が尖閣諸島周辺に武装した公船を送り込んでくるようになったことだろう。ブルームバーグは、日本が南シナ海問題に介入することを嫌った中国が、あえて東シナ海の緊張を高め、日本政府の注意をそちらに集中させようとしているのかもしれないとの分析を示している。

◆海軍の軍艦を沿岸警備艇にコンバート
 海上保安庁によると、武装した中国海警局の船が尖閣周辺で初めて確認されたのは12月22日のこと。機関砲のようなものの搭載が確認された。この船は26日、他2隻とともに日本の領海に侵入した。

 また1月3日・4日と連続で、尖閣周辺で再び、武装している中国海警局の船が確認された。船体番号からすると前回侵入した船とは別の船のようだ。こちらもやはり、機関砲のようなものを装備していることが確認されている。

 ブルームバーグの先月30日の記事によると、武装している中国海警局の船は、中国人民解放軍海軍のフリゲート艦だったものを転換したものだという。機関砲以外の装備は取り外されているもようだ。IHSジェーン・ネイビー・インターナショナル誌は昨年7月に、中国海軍のフリゲート艦が、ネービーブルーから白色に塗り替えられている写真を公表している。

 なお日本と中国は、軍事衝突の危険を避けるため、軍艦ではなく、海上保安庁や海警局の船を尖閣周辺に配置している、とブルームバーグは説明する。

◆尖閣問題に日本をくぎ付けにする狙いが?
 中国が武装した船で海警局を増強している狙いはどこにあるだろうか。

 中国が武装した船を東シナ海に初めて配置したことで、緊張が高まりつつあるが、これは南シナ海問題から日本政府の注意をそらそうとする企てかもしれない、とブルームバーグは語る。中国は日本に「首を突っ込むな」というメッセージを送っているのだとしている。

 安倍政権は、東アジアの安全保障において、日本がより積極的な役割を果たすことを追求している。南シナ海の「航行の自由」を守るためにアメリカが行っている作戦も支持している。中国は、日本のそんな姿勢に懸念を抱いている。「中国は日本が南シナ海問題に首を突っ込むことを望んでいない」と、日中関係を専門とする独ハイデルベルク大学中国研究所のジュリオ・プリエーゼ助教授はブルームバーグに語っている。もし遠く離れた南シナ海に自衛隊を派遣するようなことになれば、(足元の東シナ海の防衛が手薄になるという)リスクがあることを、中国は日本に思い出させようとしている、というのが同助教授の読みだ。

 シンガポールのナンヤン工科大学S.ラジャラトナム国際研究大学院(RSIS)のコリン・コー・スウィー・リーン客員研究員も、中国は「日本政府が、東シナ海の状況はもう和らいでいるのだから、南シナ海に注意を向け始めることができるなどと『誤って』考えたりするといけないので」、日本の注目を東シナ海に縛りつけておくことに関心がある、とブルームバーグに語っている。

 またコー氏は、近い将来、尖閣に来る中国海警局の船はますます、より新型で、より大型で、武装した船舶になっていくだろう、と推察している。ブルームバーグは、日本の海上保安庁の船舶は、中国海警局の船舶よりも、信頼性、機動性が高いと考えられている、と語る。コー氏は、中国がその差を急速に埋めつつあり、日本にとっては優位性が失われていくので厄介な問題に違いないとみている。

◆南シナ海での実効支配を積み上げていく中国
 中国は、南シナ海での軍事力の増強を着々と行っている。昨年末、人民解放軍海軍の南海艦隊は新たに3隻を就役させた。

 2日には、中国外交部が、スプラトリー(南沙)諸島ファイアリー・クロス礁を埋め立てた人工島で、飛行場の建設が完了しており、最近、民間機を試験飛行で着陸させたと発表した。この滑走路は約3000メートルの長さで、中国はいつでも軍用として使用できる、と米海軍大学校のアンドリュー・エリクソン准教授はウォール・ストリート・ジャーナル紙で指摘している。同准教授によれば、南シナ海で中国が完成させた滑走路は、パラセル(西沙)諸島のウッディー(永興)島のものに続き、2本目だという。こちらは長さ2700メートルの滑走路だ。

◆「第一列島線」は中国を守るとりで? 中国を閉じ込めるおり?
 また中国国防部は12月29日、2隻目となる空母を建造中だと公式に認めた。

 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、中国の軍事専門家らの言として、アメリカはこれまで以上の軍事力を東アジア地域に重点的に配置しようとしており、中国はそのアメリカによる「封じ込め」に対抗するため、また韓国、日本、フィリピンを含むこの地域のアメリカの同盟国に対抗するため、より強力な海軍を必要としている、と伝えた。

 日本、台湾、フィリピンなどが、中国の東側と南側に「第一列島線」と呼ばれるものを形成しているが、「アメリカのアジアへの重点配置の目的は、第一列島線に基づいて、中国を封じ込めることだ」と中国・外交学院の周永生教授はFTに語っている。

「第一列島線」はそもそも、中国側が国防上重要と位置づけていたと考えられるラインだ。アメリカとの有事の際、東シナ海、南シナ海といった自国の周辺海域で、米海軍の空母や原子力潜水艦を自由に活動させないために、中国は「第一列島線」の「内側」を自分たちの勢力範囲にしようとしてきた。

 南シナ海に関しては、人工島埋め立てや滑走路建設などで、それがある程度進行してしまっている。ロイターの12月18日の記事は、南シナ海で人工島はほぼ完成しており、関係者の間では、中国が軍事的な支配を確立しつつあるとの認識が広まっている、と語る。南シナ海は今、中国の勢力圏に入りつつあるとしている。

 そこで「第一列島線」は、中国のこれ以上の膨張を防ぐための境界線として、今後、より戦略的な重要性を帯びてくる、というのがロイターの見方だ。日本が南西諸島に軍事拠点を設立し、東シナ海での抑止力や有事対応力を増やそうとしていることは、その観点から大きな意味を持ってくる。アメリカは、国防費を大幅に削減する一方、中東問題から抜け出せずにおり、アメリカ1国で中国の膨張を止めることは難しくなりつつある、とロイターは指摘している。

Text by 田所秀徳