中国人の粉ミルク買い占め、豪で社会問題化 ネット転売で豪価格の5倍に

 中国人観光客の爆買いが日本のメディアを賑わせているが、オーストラリアでは中国人による買い占めで、店頭から粉ミルクが消える異常事態となっている。輸出が増えることを歓迎する声もあるが、購入制限を求める嘆願活動も行われており、社会問題化している。

◆転売で大儲け
 ハフィントンポスト・オーストラリア(HPA)によれば、オーストラリアの幼児・乳児用の粉ミルクのかなりの量が、中国マーケットに向かっているという。直接出荷される場合もあるが、豪ニュースサイト『News.com.au』によれば、豪在住の中国人が、店頭にある粉ミルクの買い占めを行っている場合が多いと言う。マーケティング会社、「Think China」のベン・サン氏は、一日に3000人以上が粉ミルクを購入し、微博(Weibo)や微信(WeChat)、アリババのオンライン・ショッピングサイト上などで販売し、年間10万豪ドル(約870万円)を稼いでいると述べる。シドニー・モーニング・ヘラルド紙(SMH)によれば、中国で転売される粉ミルクの価格は、豪価格の5倍にもなるという。

 買い占めで困っているのは、乳幼児を持つオーストラリアの母親たちで、小売店での購入数を規制する嘆願活動が行なわれている。この事態にジョイス農相は、オーストラリアの「クリーンでグリーンな」イメージが歓迎されている印だと述べ、市場が問題を解決してくれると発言している。

 現在、オーストラリアの粉ミルクメーカーは増産体制を取っているが、品不足はしばらく続くと見られている(HPA)

◆外国産人気の理由
 中国での外国産粉ミルクの人気には、いくつかの理由がある。もっとも大きな理由は、以前中国で起きた粉ミルク汚染事件の影響で、国産品が信頼されていないことだ(HPA)。また、粉ミルクが脳の発達を高めるという偽の情報で、悪質な業者が宣伝を重ねたことから、母乳を与える母親が減少し、粉ミルクの需要が高まったこともあるという(SMH)。

 ネットショッピングの普及も、外国産人気を後押しする。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)によれば、安全や品質を重視する消費者は多く、粉ミルクやベビーフードなどは、中国人が海外から購入する商品としては最も人気が高いアイテムの一部だという。iResearch社の調査では、75%のオンラインショッパーが粉ミルクをネットで購入したことがあると答えている。豪産品の転売ビジネスがはびこる理由もここにありそうだが、豪中FTAが発効すれば、正規の輸入品が安くなるだけに、転売で儲ける人々には痛手となると予測されている(News.com.au)。

◆一人っ子政策は即効性ある経済政策?
 さて、10月に中国政府は一人っ子政策の廃止を発表したが、発表後、日本の哺乳瓶メーカーのピジョンや、紙おむつが中国で人気の花王、ユニ・チャームなどの株価が上昇しており、ベビーブーム特需が期待されている(CNBC)。

 一人っ子政策の廃止は、将来の労働力を増やすためでもあるが、景気が減速するなか、子育てによる消費増で経済を上向かせる意図もあるとフォーリン・ポリシー誌は読む。ここ数十年、中国は輸出と投資に頼り経済を成長させたが、今後はより消費者ベースの経済に移行しなければ成長はないと政府は認識している。子育てという差し迫った必要性によって、給料が貯蓄に回らず消費に向かうことを期待している、と同誌は述べる。

 米資産運用大手のアライアンス・バーンスタインによれば、仮に子供二人政策になった場合、粉ミルク市場はさらに6%拡大し、中国の粉ミルクメーカーに収益5%増をもたらすとしている(フォーリン・ポリシー誌)。当然豪産粉ミルクの需要も高まると思われ、豪粉ミルクメーカーにとっては朗報だが、オージーママたちにとっては、甚だ迷惑なニュースかもしれない。

Text by 山川 真智子