英国“ロシア機墜落はテロ” 発表にロシア、エジプトが怒り心頭 その背景とは?

 10月31日、エジプトのシャルムエルシェイク空港を出発したロシア機が墜落し、乗客乗員224人全員 が死亡する事故が起きた。イギリスのキャメロン首相は、原因は機内に仕掛けられた爆発物である可能性が高いと発表し、同空港を発着する英国機の当面の運航停止を命じた。一方ロシアとエジプトは、原因究明に向けた調査の終了を待たずに出されたイギリスの発表に、強い不快感を表している。

◆爆発は内部から発生
 シャルムエルシェイクは紅海に面したリゾート地で、フライト停止の影響で、滞在中の約2万人のイギリス人観光客が足止めを食らった。キャメロン首相は、入手した情報から、「テロによる爆発ではないというよりも、テロである可能性が高い」と判断し、安全を第一に考え、今回の措置を取ったと述べた(インデペンデント紙)。

 テレグラフ紙は、墜落したメトロジェット9268便の最新の写真には、内側から外側に向かって開いた複数の穴が写っており、機体内部からの爆発であることが分かると説明。また、ドアなど機内にある部品にも、内部から出たと見られる破片を浴びた跡が残っているといい、内部に爆発物が仕掛けられた可能性を指摘している。シャルムエルシェイク空港には、乗客用に金属探知機とエックス線スキャナーが配置されているが、空港職員は検査を受ける必要がなく、荷物係、清掃係などの空港スタッフが爆弾を仕掛けた可能性が指摘されている。ただし、爆発物が事前にロシアで仕掛けられていたことも否定できない、と捜査担当者は見ている(テレグラフ紙)。

 英政府は足止めされている自国民のため、すでに帰国便を手配しているが、荷物を検査するエジプト側の体制に問題があると判断し、さらなるテロの危険を避けるため荷物の持ち込みは許可せず、別便で輸送するとしている(インデペンデント紙)。

◆ロシア、エジプトは断固テロ説を否定
 墜落の原因は、現在ロシアとエジプトが調査中だ。原因は技術的なものだと、両国はテロを否定してきたが、調査結果を待たずにイギリスがテロだという見解を示したため不快感を露わにしている。

 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)によれば、プーチン大統領はキャメロン首相が結論を急いだことに警告を発したという。また、ロシア連邦下院国際問題委員会のコサチェフ委員長は、英政府の決定には、「心理的圧力の要素」があると主張。「ロシアの行動への地政学的な反対がある」と述べた後、多くの人々が「必要な証拠もなしに、この惨事は(シリア空爆をした)ロシアに対するジハーディストからの反応だと言いたいのだ」と断じた。

 訪英中にキャメロン首相の発表を聞いたエジプトのシシ大統領も、不満を隠せなかった。テレグラフ紙によれば、オランダ、ドイツ、アイルランドの航空会社もイギリスの運航停止に追従。「アラブの春」がもたらした政情不安の影響から脱し、なんとか経済を再生させたいエジプトにとって観光業は生命線であり、大きな打撃となることは確実だという。キャメロン首相との昼食の席でシシ大統領は、フライト停止は「軽率」と述べ、イギリスの行動を批判した。

◆イスラム国絡みの可能性も
 この事件に関しては、4日にイスラム国を支持する「シナイ州」という組織から、ロシアのシリアへの軍事介入に対する報復だという、音声での犯行声明が出されていた。声の主は、「我々が使ったメカニズムを教える義務はない。残骸を探索し、ブラックボックスを回収するがいい」と述べているが、ロシアとエジプトは、この組織は高度3万フィート以上を飛ぶ旅客機を撃墜できるミサイルを保持していないとし、声明を退けていた(インデペンデント紙)。

 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によれば、アメリカのオバマ大統領も、ロシア機の墜落原因がテロである可能性に言及している。同機の乗客にアメリカ人は含まれておらず、事故調査に直接関与していないことから、米政府は踏み込んだ発言は避けている。しかし、イスラム国が関係しているとすれば、アメリカとしても傍観するわけにはいかないだけに、今後の原因究明が待たれるところだろう。

Text by 山川 真智子