「ひも付き援助」で批判の中国、“横柄な”西洋に代わる選択肢となり得る?

 9月26日、国連本部で演説をした中国の習近平主席は、途上国のために20億ドル(約2400億円)を拠出して、開発基金を設立すると述べた。グローバル・パワーとして国際社会でより大きな役目を担うと表明した中国だが、欧米の識者はその動きを素直に歓迎できないようだ。

◆タダ乗り批判解消?それとも野心の印?
 習主席は、基金設立に加えて、最も開発が遅れている国々に対し、2030年までに総額120億ドル(約1兆4400億円)の援助を行うことを表明。一部の途上国に対しては、債務免除の方針も打ち出した。

 中国人民大学の国際関係専門家、金灿荣氏は、援助拡大は中国がその国際社会での責任を認識したことの表れだと述べ、途上国に中国の進歩の恩恵を分け与えることが倫理的責任だと述べる。また、GDPの大きさのわりに援助が少なく、身勝手な「タダ乗り」という先進国からの批判を緩和する意味もあると指摘している(サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙)。

 一方、ケンブリッジ大学のエマ・モーズリー教授は、今回の援助の約束は、西側とは別の選択肢を与えようという中国の野心を強調していると指摘。世界の開発においては、西側諸国の影響力はまだ強いものの、そこには確かに裂け目が存在するとし、途上国同士が協力することは、「われわれはやるべきことは知っているから、適任だ。やり方を教えてやろう」という西側の横柄な態度に対する効果的な挑戦だと述べている(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、以下WSJ)。

◆援助の姿勢が問題視される
 欧米メディアは、以前より中国の途上国援助、とくにアフリカにおける、偏った投資姿勢を問題にしている。WSJはこれまで中国のアフリカへの援助は、ダムや道路などのインフラ投資にフォーカスされてきたと述べ、受入れ国やその環境にとって有害な条件で、資源採取のための道を開いてきたという批判を紹介している。

『フォーリン・ポリシー・ブログ』に寄稿したアナリストのギャリ―・サンズ氏も、アフリカにおける中国の投資は、政治が機能している国々に人道的援助を与えるより、不適切な政治が行なわれている国々から素早く汚いやり方で資源を吸い取ることに集中していると、国際開発銀行や環境・人権団体から批判を受けてきたと指摘。また、学校、住宅、病院建設などの地元民のための事業より、中国の建設会社や出稼ぎ労働者、中国国民を利する、エネルギーやインフラへの投資がより積極的に行われてきたとも述べる。同氏は、中国が国連で約束した援助は、今後行政能力の低い国の政治家や資本家の懐に入り、貧困の緩和には長い道のりとなるかもしれないと述べ、援助が末端まで行きわたるよう、中国側の計画と監督が必要だと主張している。

◆中国国内からも批判噴出
 ブルッキングス研究所のノンレジデント・フェロー、サン・ユン氏は、同研究所のブログに考察を発表。中国の途上国援助への寛大な姿勢は、国内から厳しい批判を受けているとし、8200万人以上の貧困層を抱える(2014年調べ)途上国でもある中国は、外国人に債務免除や援助をするよりも、自国民の福祉を優先すべきだという意見があると指摘する。中国にとって、援助は伝統的に二国間の政治的友好関係を固め、多国間フォーラムの場で、中国の政治的目標達成を促進させるための道具と見られており、「ひも付き援助」は輸出や請負契約売り込みの手助けとなっていると述べる。

 同氏は、中国政府の寛大な姿勢は、納税者の金を浪費して共産党の国際的な正当性を得る手段という見方があること、また援助の性質や中身について疑問を持つ人々がいることを指摘。このような対外援助に関する国内での論争が、中国政府に国際規範やベストプラクティスを採用させる契機になり得るとしている。

 国内の医療、教育の充実や貧困解決が先だという批判に対し、人民日報は「対外援助は他国の開発環境を改善し、中国製品や事業が世界に広がるという恩恵もある」と説いたという(WSJ)。しかし、国民の生活改善を後回しにするこの言葉に、説得力はなさそうだ。

Text by 山川 真智子