シリア人優先が生み出した「忘れられた難民」…欧州が線引き開始で苦境に

 欧州を目指す難民問題が、連日メディアで取り上げられているが、そのほとんどはシリア難民の話だ。大量のシリア難民の陰に隠れてしまった、他の地域から来た「忘れられた」難民の問題を、海外の一部メディアが報じている。

◆シリア以外の国からも難民は流入
 英ガーディアン紙によれば、9月初めまでに地中海を渡ってヨーロッパにたどり着いた難民38万人の約半数は、シリア人だとされている。国連の発表では、難民のうち75%は戦争や人道上の危機を理由に母国を離れた人々で、イラン、アフガニスタン、パキスタンなど中東、アジアの国々や、エリトリア、ナイジェリア、ソマリア、スーダンなどのアフリカからの難民が含まれる。

 ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)によれば、アルバニア、コソボなどのヨーロッパの非常に貧しい国からも、豊かな国を目指す経済難民が多く出ている。

◆難民となる背景と過酷な旅路
 ガーディアン紙は、シリア以外からの難民が国を離れる理由と、欧州までのルートを国別に紹介しており、多くがシリア難民と同様に、過酷な旅を経て来ていると報じている。

 政府自らが、国土の80%は安全ではないというほど、タリバンやISなどの過激派組織による攻撃で荒れ果てたアフガニスタンからは、多くの難民がイラン国境を越えトルコに入り、エーゲ海を渡ってギリシャに向かう。イランでは、国境警備隊による銃撃の危険性もあるが、1万ユーロ(約135万円)を密航業者に支払って、欧州を目指す者もいるという(ガーディアン紙)。

 憲法、裁判制度、選挙、報道の自由を欠き、「アフリカの北朝鮮」と呼ばれるエリトリアの場合もかなり悲惨だ。ほとんどの国民は徴集兵として終身強制労働を強いられ、異議を唱える者は刑務所行きで、エリトリアの元駐EU大使でさえ「住める場所ではなくなった」と述べる。難民たちは、エチオピアやスーダンに入り、サハラ砂漠を通過してリビアを目指す。多くが密航業者のトラックの荷台にすし詰めにされ、砂漠で脱水状態となって死亡したり、トラックごと砂嵐に飲み込まれて行方不明になったりするという。リビアにたどり着き、密航業者に支払いができた者だけが、ボロボロのボートでイタリアに渡ることを許される。他の国々の多くの難民も、同様の旅を強いられているのが実情だ(ガーディアン紙)。

◆シリア難民優先が、他の難民に影響
 欧州に着いても、これらの難民の亡命申請が受理される保証はない。LATによれば、EUはシリア難民を優先するため、すでに亡命申請をしている他国の難民たちは、大量のシリア人の流入で、自分たちの認定が遅れる、または却下される不安を抱えているという。一部の難民の中には、シリア人を装い、亡命申請をする者も現れた。受入国側では、不審な申請者には、専門家による母国語の発音チェックをさせるなどの対策も取り始めている(LAT)。

 ドイツやEUは難民危機に対処するため、戦争や迫害から逃れてきた難民と経済難民との線引きを始め、「安全な国」リストの作成に乗り出している。これにより、経済難民であるバルカン半島出身者には、亡命は狭き門となりつつある(LAT)。

◆国連やメディアに責任も
 ギリシャでアフガン難民の支援活動をするモハメッド・ミルザイ氏は、米ニュースメディア『リアル・ニュース』のインタビューで、欧州や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がシリア難民を優先し過ぎだと批判した。同氏は、UNHCRは、シリア難民についての調査には熱心で、これがほぼ紛争に巻き込まれ40年が経っているアフガニスタンと、4年しかたっていないシリアとの違いだと主張。また、シリア難民ばかりを取り上げるメディアも批判した。

 一方、一部の「忘れられた難民」たちは、お互いの事情も知ってか、シリア難民優先に理解を示している。民族、宗派対立が続くイラク出身の難民は、「イラクの現状もひどいが、シリアはそれ以上だ。毎日多くの人が亡くなっている。彼らが優先されるのは、理解できる」と述べている。シリアではすでに約25万人が、戦争に巻き込まれ亡くなっている。(LAT)。

Text by 山川 真智子