“930億円”のマグロの大群出現に英紙大興奮 でも地元漁師が喜べない事情とは…

 イギリス南西部のコーンウォールの沖合に、普段は見られないクロマグロの大群が出現し話題になっている。英紙は、マグロの日本での取引価格は1匹あたり100万ポンド(約1億8000万円)で、獲れば大儲けできるとセンセーショナルに報じているが、ある理由から地元漁民はマグロの出現を歓迎できないでいる。

◆高級魚の大群にメディアも興奮
 英テレグラフ紙によれば、クロマグロの大群を発見したのはコーンウォールで観光クルーズ会社を経営する夫婦。二人は、海はまるで「破裂」するかのように500匹ほどのマグロで埋め尽くされていた、と話す。

 地元紙、ウェスタン・モーニング・ニュースは、このクロマグロの群れの価値を金額にして2億5000万ポンド(465億円)と試算。英デイリー・メール紙にいたっては、5億ポンド(930億円)と報じている。

 テレグラフ紙は、2013年の築地市場での初競りで、すしチェーン「すしざんまい」を展開する喜代村が、青森県大間産のクロマグロを1匹1億5540万円で落札したことを紹介し、これがかなりインフレ気味の値段だったとはいえ、すしネタとして人気のマグロは、今でも1匹数千ポンドで取引されていると説明している。

 ちなみに今年の築地の初競りでのクロマグロの最高値は451万円。昨年は736万円なので、群れ全体を数億ポンドと計算するのは、残念ながら現在では無理がある。

◆目の前にいても獲れない事情
 これは一攫千金のチャンスとばかりに、地元漁民は色めき立つと思いきや、マグロの大群の出現を喜ぶ漁業関係者はいない。EUの漁業規則では、ギリシャ、フランス、スペインを含む7ヶ国だけがマグロの水揚げを許可されており、イギリスの漁船はクロマグロの捕獲を禁じられているためだ(テレグラフ紙)。

 商業的に重要となったこと、また新しい漁法が導入されたことで、1960年代からマグロの数は減少。乱獲もたたって絶滅寸前と認定され、ヨーロッパにおいては商業的な捕獲禁止への圧力が高まった時期もあった。ここ数年は、マグロの数も回復傾向で捕獲割り当ても増えたものの、イギリス漁船には捕獲は許されておらず、イギリス近海の漁業を管轄する海洋管理機関(Marine Management Organisation)も、「イギリスの漁師はクロマグロを狙ってはならない。偶然に捕まえたとしても海に帰さねばならず、それが出来ない場合は、陸にあげるのはよいが、売ってはならない」と厳格だ(テレグラフ紙)。

 このようなルールに、一部の漁業関係者は反発。クロマグロが出現したという報道後、外国船がマグロを狙ってイギリスの領海にやってきているという情報もあり、関係者からは、英政府は自国の漁業関係者が利益を得るチャンスを奪って外国には寛大だ、という声も一部で上がっている(テレグラフ紙)。

◆温暖化が原因?
 クロマグロは地中海や大西洋に多い魚だ。デイリー・メール紙によると、1800年代後半からコーンウォール近海で26件のクロマグロ発見の記録があるものの、イギリス周辺で見られることはほとんどないという。

 今回クロマグロの大群が出現した理由は分かっていないが、一部の専門家は、地球温暖化でイギリス周辺の海水温が上がったからではないかと指摘している。

Text by 山川 真智子