中国の3000m滑走路完成、黄海で海軍実弾演習 日本はメコン首脳会議で“対抗”

 中国が南シナ海のファイアリクロス・リーフ(永暑礁)で建設している滑走路がほぼ完成した。アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)のアジア海洋透明性イニシアチブ(AMTI)が公表した衛星写真によって明らかになった。全長3000mの滑走路で、大型軍用輸送機や戦闘機の離着陸にも十分な規模だという。

 また、中国海軍は今週、黄海で大規模実弾演習を実施。そのなかで初めて戦闘状況下でのミサイル再補給訓練も行った。ロシア系通信社スプートニクは、緊迫する南シナ海情勢を見据えた動きだと報じている。一方、日本の安倍晋三首相は、4日に東南アジア5ヶ国の首脳と「メコン地域諸国首脳会議」を開催。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、中国の地域外交に対抗する動きだと見ている。

◆台風シーズンと習主席訪米を前に完成を急いだか
 ファイアリクロス・リーフは、中国とフィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾が領有権を争う南シナ海のサンゴ礁の一つ。AMTIが公開した衛星写真によれば、1月に建設が始まった3000mの滑走路がほぼ完成した。全面舗装されており、誘導路も備えている。このほかに、2つのヘリポート、2つの灯台、セメント工場、10基の衛星通信アンテナなども完成している。

 4月の衛星写真では、滑走路は3分の1程度しかできていなかった。その後、夏の台風シーズン前の完成を目指し、急ピッチで工事を進めたと見られる。CSISのアジア担当上級顧問、ボニー・グレーサー氏は、台風シーズンの到来に加え、9月の習近平国家主席の訪米に絡んで工事は一時的にスローダウンすると見ている。しかし、同氏は「今秋になれば建設活動は再び活発化すると思う」とし、「中国は建設と軍事化を進めていくだろうが、この夏には少なくとも対話を増やす機会が提供される」と述べた。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙=WSJ)。

 同様に中国による基地化が進んでいるサウスジョンソン・リーフ(ジョンソン南礁)でも、新たな軍事施設が確認された。AMTIの衛星写真によれば、3000平方メートルの港と補給基地、2つのヘリポートと3つの通信アンテナが完成している(英ガーディアン紙)。

◆海軍はミサイル発射・再補給訓練を実施
 中国外務省の華春瑩報道官は今週の定例記者会見で、「人工島に施設を建設することで、中国は(災害防止、海上救難、環境保護などの分野で)国際的な義務や責任をもっと遂行できるようになる」とし、「必要な軍事・防衛上のニーズ」も満たされるだろうと述べた(WSJ)。

 また、中国の楊潔篪(よう・けつち)外交部長は先週、ワシントンでケリー国務長官と会談し、「南シナ海の航行の自由は保証されている」と述べた。その一方で、「アメリカがこの地域の平和と安定に公平で客観的になれることを期待する」と、人工島建設を非難するアメリカを牽制した(ガーディアン)。

 一方、中国海軍は2日、黄海で大規模な実弾射撃演習を行った。スプートニクによれば、艦艇に加え、航空機と地上部隊も参加し、最新鋭の魚雷やミサイルを陸海空の目標に発射した。また、中国防衛省(国防部)は同日、「今回は初めて、戦闘下を想定した海上でのミサイル再補給訓練を行った」と発表した。南シナ海での有事を想定したものだと思われる。

◆日本と東南アジア5ヶ国はサミット開催で結束強化
 南シナ海での中国の動きを懸念する日本と東南アジア諸国は4日、東京で首脳会談を開催。メコン川流域のカンボジア、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオスの首脳が参加する。同サミットは「メコン地域諸国首脳会議」と名付けられているが、FTは「日本の宿命のライバル、中国からこれらの国々へ流れる川の名前にちなんでいる」と記している。

 同紙は、この首脳会談を「日本が東南アジア諸国との結びつきを強めるための新たな積極的な動き」だと表現。日本は東南アジア諸国との関係強化を「国内の経済成長と地域の戦略バランスに必要不可欠だと見ている」と記す。シンクタンク、外交政策研究所の宮家邦彦氏はFTに、中国の南シナ海での動きなどに対抗するため、国際的な価値観の元に東南アジア諸国をまとめあげるのが、日本の狙いだと指摘している。

Text by 内村 浩介