「TPP妥結の道が開かれた」 オバマ大統領TPA取得、日本らとの交渉再開へ

 米議会上院は24日、環太平洋経済連携協定(TPP)合意の前提となる大統領貿易促進権限(TPA)法案の再採決を行い、賛成60、反対38で可決した。これにより、TPP推進派のオバマ大統領に交渉権が一括して与えられることがほぼ確実となった。各国メディアは、「TPP妥結へ大きく前進」(ロイター)などと報じている。

 しかし、米国内でのTPP反対論はいまだ根強い。「議会の最終承認にこぎつけるまで、数ヶ月にも及ぶ困難な道のりが始まる」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙=WSJ)など、米メディアでは慎重論も目立っている。

◆日本との交渉も再開の見通し
 アメリカでは憲法上、通商交渉の権限は議会に与えられている。そのため、議会は政府が各国と締結した協定の内容を自由に修正することができる。しかし、それではなかなか交渉を妥結できないケースが過去にあったため、いわゆる抜け道的なルールとして制定されたのがTPAだ。大統領に権限を移譲することにより、議会は交渉内容を個別に修正することができなくなり、全体の賛否のみを採決することになる。

 米国内で賛否両論あるTPPについても、TPAを成立させなければ交渉の出口が見えない状況となっていた。そのため、TPPを経済政策の鍵と位置づけるオバマ政権とそれに大筋で賛成している共和党は、TPA法案の可決を急いでいた。これに対し、反対派の民主党は、TPP締結によって懸念される国内の失業者対策を盛り込んだ「米貿易調整支援」(TAA)法案とTPA法案を束ねて審議する戦略を取った。その結果、上院では一括法案が可決されたが、下院ではTAAが否決された。そのため、今回上院で改めてTPAとTAAを分けて再採決し、両法案とも可決された。

 TAA法案は25日に下院に送られ、今回は賛成多数で可決された。両法案は今週中にもオバマ大統領の署名を経て成立する見通しとなった。これを受け、フロマン米通商代表は、日本などTPP参加国との個別交渉を近く再開する予定だ。各国もこれを歓迎すると見られ、「妥結に向け道が開かれた」(ニューヨーク・タイムズ紙=NYT)などと報じられている。

◆紆余曲折を経てようやく出口が見えてきたが…
 オバマ大統領はTPPを経済政策の要に位置づけている。一方、議会では与党・民主党が反対、野党・共和党が賛成というねじれ現象が起きている。さらには先の中間選挙で共和党が両院で過半数を獲得するなど、TPP交渉はこのところ複雑なアメリカの政治状況に翻弄されてきた。その先行きがようやく見えてきた格好だが、ピーターソン国際経済研究所の上級貿易専門家、ゲーリー・ハフバウアー氏は「勝利は手の届くところにあると思うのは大きな間違いだ」とし、大統領にTPAが付与されたことは「劇の第2幕の始まり」に過ぎないとくぎを刺す(WSJ)。

 TPAが可決された事により、TPP法案はシンプルに「賛成」「反対」を問う形で両院で一括審議される事になるが、WSJは、「TPPが法案として議会に上程されても、来年の大統領選・議会選を控えて左派、右派双方から攻撃され、法案の成立がTPAよりはるかに難しくなる可能性がある」と指摘する。日本などとの合意は7月にも成立すると見られているが、米議会での採決は秋以降に行われる。オバマ大統領の足元で否決されれば、TPP交渉全体が暗礁に乗り上げかねない。

 米大手企業のほとんどはTPPを支持していると言われるが、WSJによれば、「国内市場に特化した一部製造業は、安価な輸入品が流れ込むことを懸念して、反対するよう議員に働きかけはじめている」という。同紙は、「TPPの合意文書が全面公開されれば、環境保護団体や労組、消費者団体などから具体的な批判の声が上がるのはほぼ確実だ」と見ている。

◆賛否両論渦巻く米業界
 WSJは、TPPに対する米国内の業界別の反応もまとめている。それによれば、自動車業界は複雑だ。自動車や自動車部品の関税引き下げ幅や時期によっては、日本車の輸入が増加するという見方もあり、ミシガン、オハイオなど自動車産業が支える州の選出議員は、TPPに声高に反対している。一方、自動車大手の“ビッグ3”は、TPPを大枠で支持するものの、日本が円安誘導政策で優位に立つことを阻止するルールの導入を求めている。

 農業団体は、TPPによって日本などの海外市場に参入しやすくなると歓迎、映画業界は著作権侵害が増えることを恐れ、著作権保護ルールの強化を求めている。また、「IT業界は開かれたインターネットやデータの自由な流れが保証されることを期待している」とWSJはまとめている。

 日米を中心としたTPPに対抗意識を燃やす中国も、今回の米議会の動きに注目しているようだ。国営新華社通信は上院でTPAが可決されたニュースと共に、TPP締結に向けた見通しや、今後の米国内で手続きについて詳報している。

Text by NewSphere 編集部