米教科書の慰安婦記述、発行元が修正を拒否 “隠ぺいのため慰安婦虐殺”など

 アメリカの出版社「マグロウヒル・エデュケーション」の発行する教科書の、慰安婦に関する記述などに問題があるとして、外務省は昨年末、同社に対して正式に是正を要請したが、同社はこれを拒絶した。

◆外務省の要請、断られる
 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙によると、問題とされた教科書『Traditions & Encounters(それぞれの伝統と遭遇)』には、「日本軍は14~20歳の女性を、20万人も強制的に徴用し、軍属させ、『慰安所』と呼ぶ軍の売春宿で働かせた」と書かれている。また、日本軍が「その活動を隠ぺいするため、多数の慰安婦を虐殺した」とも記されているという。さらに、産経新聞によると、「日本軍は慰安婦を天皇からの贈り物として軍隊にささげた」といった記述も含まれている。

 外務省は、同書の記述に深刻な誤りがあるほか、日本政府の立場と相いれない記述があるとして、マグロウヒル社に是正を要請した。昨年12月、日本の在ニューヨーク総領事館員が、同社幹部と面会して伝えた。

 マグロウヒル社はこの要請について、15日、「『慰安婦』の歴史事実について、学者の意見は一致している。わが社は執筆陣の著述、研究、表現をはっきりと支持します」と、受け入れない旨を声明で発表した(WSJ紙)。

 外務省は、該当部分の執筆者であるハワイ大学の現代史のハーバート・ツィーグラー准教授にも接触し、要請を行ったようだ。しかし同氏は「出版社も私も、そのような意向はまったく考慮に入れません」とWSJ紙に語っている。

◆日本の国際発信は成功するか
 日本政府は今後、「国際社会の正しい理解を獲得」するための「戦略的対外発信」に注力する方針だ。WSJ紙は、2015年度予算で、そのための予算が500億円割り当てられることを伝えている。外務省によれば、その予算は、「日本関連の国際世論の分析と対外発信力を抜本的に強化」することや、「親日派・知日派育成のための交流拡大」などに用いられる。

 今回の外務省のマグロウヒル社への要請も、そのような対外発信をする姿の一つだろう。けれども、少なからぬ海外メディアにおいて、安倍首相と歴史修正主義を結びつける見方が固定化してしまっている。今回の一件も、それを補強するエピソードとして捉えられてしまったようだ。

 英ガーディアン紙は、日本は戦時の歴史を訂正する運動を教室に持ち込んだ、と語る。日本は、ナショナリストの安倍首相のもと、「南京大虐殺」、戦争捕虜の処遇、慰安婦の強制など、自国の現代史において論議の的になる事例について、問題を小さく見せようと試みている、と語っている。

 WSJ紙は、安倍首相とその保守政権は、戦中の日本の行動に関する否定的な叙述を和らげることで、国民の愛国心をよみがえらせ、海外での日本のイメージを高めようと試みている、と語っている。

◆日本の教科書問題
 安倍政権のそういった方針は、学校教育にも及んでいる。安倍首相が2012年12月に政権の座に復帰して以来、政府は、日本の子どもたちに国に対する誇りを染み込ませることを企図して、教育制度の総点検を推し進めている、とWSJ紙は伝える。

 また文部科学省は、昨年1月、教科書の検定基準を改定した。ガーディアン紙はこのことに触れ、安倍首相率いる日本の保守政権は、(歴史や領土など)異論のある問題については、教科書に政府の公式見解を記述するよう出版社に要求している、と伝える。

 この動きと直接関連したものではないが、教科書会社「数研出版」は先ごろ、自社が発行する教科書から「従軍慰安婦」と「強制連行」という語句を削除する旨、文部科学省に申請を行い、認められている。各メディアは、マグロウヒル社の問題とあわせてこれを報じている。

◆憤る韓国政府
 文科省がこの申請を認可したことについて、韓国政府が憤っていることをガーディアン紙は報じる。「日本政府がこのようなばかげた行為を繰り返すのであれば、韓日関係を改善する上で深刻な障害となるだろう」と韓国外交部が発表したと伝えた。

 韓国政府は、歴史修正主義者の歴史に向かう日本の動きに懸念を抱いている、と中央日報(英語版)は伝える。この動きは、近年ずっと続く、両国の外交関係の悪化に拍車をかけている、と同紙は語る。日韓首脳会談の実現など、未来志向の関係に向けて準備を始めるべき今、日本政府が慰安婦問題を解決することが、関係改善には必須と見なされている、とした。

Text by NewSphere 編集部