インドネシアの親日閣僚:パナ出身・ゴーベル貿易大臣、“漁港の女帝”スシ水産大臣に注目

 インドネシアは、今年10月に就任したばかりのジョコ・ウィドド大統領の下で積極的な外資呼び込みが進められている。

 同国は世界の中でも非常に親日的な国として知られているが、それを示すようにジョコ内閣の閣僚は日本と近しい人物が目立つ。同じ島嶼国家で地理的状況が似通っているというのもあり、インドネシア政府は日本を「最重要パートナー」と考えているようだ。その結果、数ある日系有力企業の中でもインドネシアの地理条件と、そこから由来する事情にマッチした企業が同国で大きなビジネスチャンスを得るということが徐々に分かってきた。

◆「松下グループの門下生」ラフマット・ゴーベル
 貿易相ラフマット・ゴーベル氏は、中央大学商学部の卒業生である。大企業ゴーベルグループの御曹司として生を受けたこの人物は、幼少の頃から父親に経営学の英才教育を施される。その一環として日本に留学し、卒業後は大阪の松下グループ本社でビジネスマンとしての経験を積む。帰国後はゴーベルグループのトップとして、日本で培った経営手腕を存分に発揮した。まさに究極の知日派である。

 そんなゴーベル氏が先月、駐ジャカルタ日本大使館を訪れた。その様子を現地通信社ビバニュースが伝えている。

「11月25日、ラフマット・ゴーベル商業大臣は日本大使館を訪れ、谷崎泰明全権大使と会談した。この会談の中では日尼間の交易と投資に関する調査、特に日系企業進出のためのインドネシア国内の投資環境の整備について意見が交わされた。その他にも、両国間のEPA(経済連携協定)に関する協議が行われた」

 今現在の日尼EPAの枠組みには大臣就任以前のゴーベル氏も大いに関わっているが、この人物が政治力を持ったことで両国間のより一層の関係発展が見込まれている。何しろ、ゴーベル氏はパナソニックが経営危機に陥った際もゴーベルグループとの業務提携を二つ返事で継続させた経営者だ。かつてはトランジスタラジオ製造を手がける程度のローカル企業に過ぎなかったゴーベルグループは、1960年に松下グループからの技術支援を得てテレビの製造に着手、62年に行われたジャカルタ・アジアンゲームをきっかけに躍進的な売り上げを記録し、現在の大財閥としての基盤を築いた。ゴーベル氏は、父親である故ムハンマド・ゴーベル氏が松下から受けた数十年来の恩を返したのである。そのため、ゴーベル一族に対する日本の財界からの信頼はこの上なく厚い。

◆「漁港の女帝」スシ・プジアストゥティ
 もう一人、日系社会から絶大な期待を寄せられている人物が入閣している。知日派で、日系社会と強力なつながりを持つ海洋水産大臣のスシ・プジアストゥティ氏である。

 右足に施されたフェニックスのタトゥーがトレードマークというこの女性は、インドネシアでは前例のないほどの破天荒な経歴を歩んだ人物だ。西ジャワの裕福な家庭に生まれるも両親に反抗し、裸一貫で魚河岸の世界に飛び込んだスシ氏は、やがてパンガンダラン漁港の気の荒い漁師を率いる女帝として君臨する。ロブスターの輸出ビジネスで財を築くと、その流れで日系企業とも関係を持つようになった。その際に彼女は、日本の漁業システムの先進性やそれを支えるテクノロジーなどを学んだと言う。酒飲みで喫煙家、そして最終学歴が中学校卒業というスシ氏には、就任当初は批判もあった。だが違法外国漁船に対する撃沈警告とその実行、そして日本をモデルにした漁業整備計画が国民に評価され、今や「スーパーウーマン」というイメージを決定付けた。

 現地インターネットメディアのスアラスラバヤ・ネットは、水産学校でのスシ氏の講演会の様子をこう書いている。

「スシ・プジアストゥティ海洋水産大臣は、シドアルジョ水産学校で講演を行い、規律を学ぶ大切さを生徒に説いた。
(中略)
その中でスシ大臣は、日本の漁師と港湾施設を参考にするようにと語った。『日本の海上、港は管理が行き届いている。そのため海産物の盗難がない。日本の漁師たちはいずれも成功を収めている』。」

 スシ氏は大臣に就任してから、度々日本を例に出して話をすることで知られている。その内容は例外なく、日本の最先端の海洋技術から学び取ろうという趣旨だ。

◆加速する投資
 上述の二大臣は、特に海洋部門への日本からの投資を要求している。インドネシアは島嶼国家にもかかわらず、港湾設備や運用船舶、航行管理システムに至るまであらゆる面で整備に遅れを取っているからだ。その最中、現地大手紙コンパスは、日本の重工業企業IHIがインドネシアでの工場建設を予定していると報道した。

「駐日インドネシア大使館のユスロン・イザ・マヘンドラ全権大使はコンパスの取材に対し、日系重工業大手IHIグループがインドネシアへの投資に向けて動いていると明かした。だがその前に、同社はインドネシアでのビジネスパートナーとなる企業を模索しているともユスロン大使は話す。
『私が東京から帰国した目的は、インドネシア財界の要人と共にIHIの代表と打ち合わせをするためだ』。」

 同紙はこの記事で、IHIが建設を計画しているのは船舶用エンジン工場だと説明する。先述の通り、インドネシアは海洋インフラがまだ整っているとは言えない。人員や物資の移送の要となる船舶の老朽化も、非常に重要な国内問題になっている。今も年に数回は東部地方の海域でフェリーが沈没したというニュースを聞くほどだ。韓国で日本からの中古フェリー『セウォル号』が横転し、多数の尊い命が失われた報道は日本でも盛んに行われたが、それと全く同じことがインドネシアでは頻繁に起こっているのだ。

 そういう事情を鑑みると、IHIからの投資の話が駐日全権大使をも巻き込む「一大事」になる理由は想像に容易いだろう。現地での合弁企業はどこになるか、出資配分はいくらかという問題はあるものの、それをクリアできればあとは順調に工場建設まで指折り数えるだけという状況ではないか。少なくとも、各省がこの投資を拒む理由が一切見当たらない。出資配分についても、ロビー活動次第で日本側への優遇が認められる可能性もある。

Text by NewSphere 編集部