豪州の新型潜水艦、日本で建造か? 現地メディアが批判の声を報道、その背景とは

 潜水艦新造を計画するオーストラリアが、川崎重工業 と三菱重工業 に建造を発注し、完成品を輸入する方向で日本と協議していることが明らかになったと海外メディアは報じており、両国は年明けにも合意する可能性がある。

【オーストラリア政府の思惑とオーストラリア国内の反応】
 ロイターや英E&T誌によると、オーストラリア政府は従来のコリンズ型潜水艦を2030年代までには4000トンクラスの日本のそうりゅう型潜水艦にきりかえる予定である。従来のものは騒音がひどく、敵に簡単に発見されると批判が強かった。国内生産では400億豪ドルの費用が掛かり、緊縮財政を敷くオーストラリア政府には負担が大きい。一方、そうりゅう型では5億ドル+メンテナンス・修理ですみ、経済的である。これまで製造を請け負ってきたアデレードの造船所ではメンテナンスと修理を行うという。

 国防相デービット・ジョンストン氏は潜水艦新造について「次世代潜水艦のデザイン・建造については何も決まっていない。国防白書で説明するのが適当である」とコメントしている(ロイター)。

 一方、オーストラリア国内では強い反対意見がある。先月末、日本人潜水艦専門家16人が南オーストラリア州アデレードの政府系造船会社ASCの潜水艦ベースを視察した。オーストラリア放送協会は、南オーストラリア州(潜水艦の整備施設がある)のマーチン・ハミルトン・スミス防衛産業相が「今回の訪問については何も知らされていない。具体的な説明を求める。前回の選挙で、国内での潜水艦新造を公約したことへの違反ではないか」と強い懸念を表明したことを紹介している。

 また、ロイターは同氏のコメント「連邦政府は政策を逆転させた。これはフォード・モーターやトヨタ自動車 、ゼネラル・モーターズ が生産から撤退した以上に政治的な議論を呼ぶ。経済的な影響も大きい」を紹介し、警告を発している。

 オーストラリア製造業労組(AMWU)はキャンベラで集会を開き、政府に公約を守るよう要求する。現在南オーストラリア州では27,000人が軍需産業に携わる。このうち3,000人は造船業で、潜水艦プロジェクトは30年間で2,500億豪ドルの経済効果を生み出すとされている(ロイター)。日本での製造になると数千人が職を失うことになる。「失業だけでなく、連邦政府は安全保障も危険にさらす」との政治家の意見もある。

【日本政府の思惑】
 日本の安倍首相は今回の事案を積極的に進め、日本の防衛戦略を前進させたい意向のようだ。安倍首相とオーストラリアのトアボット首相は、安全保障・防衛面での協力について、武器・軍事技術の提供も含め、7月に合意している。

 ロイターは、今回の潜水艦輸出に関する日本政府の思惑について「安倍首相にとってこれが合意されれば、日本は平和憲法にもはや制約されることが多くないことを示す機会になる。日本は4月に武器の禁輸政策を見直し、一定の条件を満たせば輸出や他国との共同開発を認める防衛移転三原則を導入した。また軍事費の予算削減を取りやめ、軍事費を増加した。潜水艦の輸出は初めての完成品の輸出となる」と詳細に説明を加えている。英E&T誌でも、同様の趣旨のコメントを掲載している。

【米国の反応】
 日本、オーストラリア、米国は軍事的つながりが強い。米国は今回の合意について、中国をけん制することができるとし、好意的に受けとめている。ロイターは米国海軍関係者の「日豪の協力関係は両国が決めることだが、米国はこれを歓迎する」とのコメントを紹介している。

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Text by NewSphere 編集部