ベトナムの対中抗議活動で暴徒化も ナイキ供給元も一部生産停止

 ベトナム国内で、中国への抗議行動が止まらない。南シナ海の、ベトナムが排他的経済水域を主張する海域に、中国が石油掘削設備を設置したことが発端だ。各地でデモが行われているほか、工場の襲撃が相次ぎ、ついには死者の出る事態となった。

【多発するデモと暴動で、混乱する報道】
 13、14日には、南部ビンズオン省のベトナム・シンガポール工業団地で、参加者1万人以上の大規模なデモがあった。一部が暴徒化し、工場を襲撃した。中国企業を狙ったものだったが、台湾企業が数多く巻き添えになったという。フィナンシャル・タイムズ紙によると、工業団地の運営会社は14日夜、工場99ヶ所が襲撃され、4ヶ所が放火されたと発表した。

 14日には、中部ハティン省の製鋼工場で、ベトナム人従業員がストを宣言し、そのあと暴動が発生した、と記事は伝える。工場を運営する台湾プラスチックグループの発表によると、中国人1人が死亡し、そのほか、90人がけがを負ったという。

 またロイター通信は、同14日夜にハティン省でデモが暴徒化したと報じた。現地の病院関係者からの情報として、約100人が病院に搬送され、中国人とみられる16人と、ベトナム人5人が死亡したと伝えた。これが製鋼工場の暴動の被害者なのかは、不明であるとしている。

【多くの工場が操業を停止】
 フィナンシャル・タイムズ紙は、暴動の影響で、ベトナム国内の多くの工場で生産がストップしていることに着目している。

 ハティン省の製鋼工場の関係者は、現在、完全に操業を停止していると同紙に語っている。また、生産がいつ再開できるかは、現地当局がどれほど速やかに状況を掌握できるかにかかっている、と述べている。

 記事の報じるところでは、ナイキにも製品を供給する、スポーツ靴製造の世界最大手である裕元工業は、自社は被害を受けていないが、予防措置として、ホーチミン市での生産を停止した、と発表した。また、世界最大の資材調達会社利豊は、14日、ベトナム国内の同社の資材供給元の数社が操業を停止したと発表した。

 ベトナム在住の多くの中国人、台湾人が、暴動の被害に遭うことを恐れて、国外に逃れていることも、記事は伝えている。

【ベトナムと中国のこれまで の関係は?】
 ブルームバーグは、今回の抗議行動の引き金になった、南シナ海での中国の振る舞いについて、そのいきさつと、今後への影響を詳しく論じている。

 現場となったのは、西沙諸島(パラセル諸島)のそばの海域で、海洋資源の豊富な場所と言われている。西沙諸島は、かつてはベトナムと中国が、半分ずつ支配していたが、ベトナム戦争中の1974年に、中国がベトナム側に侵攻し、これを奪った。以来、中国の実効支配が続いている。

 その後、1979年には中越戦争があり、約2週間交戦した。1988年には、南沙諸島(スプラトリー諸島)の領有をめぐって軍事衝突し、ベトナム側の国境警備兵64名が殺害された、と記事は伝えている。

 このように、ベトナムと中国はたびたび衝突しているが、1991年には国交が正常化され、近年は経済的結び付きが強まっていた。昨年、中国首相がベトナムを訪問するなど、関係は良化しつつあった。記事は、ベトナム政府の貿易統計を引用している。それによると、両国間の貿易総額は、昨年は前年より22%上昇し、502億ドル(およそ5兆円)に達した。ベトナムから中国への輸出は7%上昇し、全輸出高の10%を占めた。中国からベトナムへの輸出は28.4%も上昇した。2015年には貿易総額は600億ドルに達すると、ベトナム政府は予想していた。

 今回の件で、両国間の摩擦が強まった結果、ベトナム政府はアメリカへの接近を強める可能性がある、とブルームバーグは論じている。また、フィリピンと日本も、ベトナム同様に中国との領土紛争に巻き込まれているとして、両国に支持を求める可能性もある、としている。

【“争議などない”と中国】
 オーストラリア国防大学のカーライル・セアー名誉教授は、ブルームバーグに、「中国は、支配力拡大の企図を推し進めるために、経済力と軍事力をこれまでにないやり方で用いている」と語っている。「中国はいまや一方的に自国の権益を主張するでしょう。重大な偶発事、突発的攻撃につながりかねない緊張状態を、コンスタントに生じさせる源になっています」

 中国側は、今回の振る舞いについて、国営新華社通信傘下の新華網英語サイトの論説で、正当性を主張している。中国の石油会社が、南シナ海の争議などない海域で行っていた通常の事業を、ベトナム側が繰り返し妨害した、というのだ。海上で起きている両国間の船のにらみ合いについては、ベトナム政府は最大限の自制を発揮し、状況をエスカレートさせる可能性のある手段は、一切取らないようにするべきだ、としている。そしてそれが結局は、中国、ベトナム両国の利益に資する、と主張している。

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Text by NewSphere 編集部