米紙、プーチン大統領は“不安定要因”と批判 “歴史的”評価の露メディアと真っ向から対立

 プーチン大統領は18日、クリミア自治共和国をロシアに編入すると正式に表明し、条約に署名した。16日にクリミアで行われたロシア編入の是非を問う住民投票が、95%を超える圧倒的多数で賛成となった結果を受けてのことである。

 海外各紙が、それぞれの論評を繰り広げている。

【まずはウクライナの安定確保を】
 フィナンシャル・タイムズ紙の論説は、ウクライナにとって今、最も必用なのは「情勢の安定」と指摘する。

 著者のマーティン・ウルフ氏によると、ウクライナのトゥルチノフ大統領代行は、ロシアが強硬姿勢を貫く理由について「ウクライナが欧米的に繁栄し民主化することに対する怖れ」だと語っているという。ウルフ氏はこの発言について「残念ながらトゥルチノフ氏の発言はその通りだ」と述べている。

 しかし、経済的に安定し民主化したウクライナは、長い目で見ればロシアにとっても有益、とウルフ氏は言う。ウクライナの安定は何を差し置いても最優先であり、そのためには各国も支援する必要がある。とはいえ、ロシアの協力だってあるに越したことはない。ウクライナ最大の輸出先はロシアであり、かつ燃料資源の多くをロシアから輸入している。つまりウクライナの安定は、ロシアの経済的協力があるほうが遥かに達成容易なのだ。ロシア自身のためにも、互いに協力して安定を図るのが望ましいだろう、と同氏は説く。

【そこまで楽観視できない論評も】
 一方、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の論説は、「ロシアはウクライナの民主化など怖れていない」との見方を述べている。

 著者のホルマン・ジェンキンス氏は、いわゆる「そのほうがロシア側にも有益だから」といった話をあまり信じてはいけないと言う。なぜなら「何がロシア側にとって有益か」は実利よりも政治のほうが優先だからだ、と同氏は分析する。

 同氏は、ロシア側の思惑について、「近隣国が西欧のように繁栄して近代化しても別に構わない。ロシア国民が同じことを望まないかぎりは」と分析。プーチン大統領は安定をもたらすどころか、むしろ不安定を増長する要因であると断じている。

【大統領すら止められない紛争に発展?】
 ニューヨーク・タイムズ紙の論説では、現地を取材したヨッヒェン・ビトナー氏が「民族間の争いが手のつけられない事態に発展する」可能性について言及している。

 同氏は、クリミア自治共和国の首都シンフェロポリで遭ったあるセビリア人の兵士の話を伝える。「仲間のロシア人をファシストから守るため」にやって来たと語るこの兵士は、あくまでも平和を守るのが目的で、武器や爆発物が搬入されないよう監視しているとのことである。

 しかし、志願兵を募る告知には誤解を持った者も多く集まる、と青年は言う。例えば、ウクライナに来れば「アメリカを倒すために闘える」と思って応募する者もおり、そういった向きには家で大人しくしているよう伝えるが、意に介さずやって来てしまうとのことだ。

 クリミアにはイスラム系のタタール人も在住する。同胞を守るための「ジハード(信徒による聖戦)」を起こしに、世界各地から来訪する可能性がないともいえない。このような民族紛争が発展した暁には、プーチン大統領ですら止めることができない惨劇となるだろう、と同氏は警鐘を鳴らす。

【一方ロシアの見解は】
 一方、ラジオ局『ロシアの声(The Voice of Russia)』は、プーチン大統領のクリミア編入を告げた演説を「歴史に残るスピーチ」と評している。

 同局の政治解説員ディミトリ・バビチ氏は、元々はプーチン大統領こそが「領土と主権」の忠実な支援者であった、と述べている。しかし西側諸国が「領土と主権」など尊重しないことはコソボの件で立証済みだから、これからはロシアも同じやり方でやる。これは大統領にとって外交上の転機となった、と語っている。

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Text by NewSphere 編集部