核の脅威は「今、そこに」? 起こりうる核誤爆の危険とは

 それは、1961年1月23日、アメリカで、誕生したばかりの若きケネディ大統領の就任演説がアメリカ人を熱狂させたわずか3日後のことだったという。ノースカロライナ州ゴールズゴロ上空を飛行中だったB52爆撃機が制御不能に陥った。このとき、最大の問題は、同機が2発の水爆を搭載していたことだった。爆弾は、空中で機体から外れ、牧草地などに落下したという。

【「核兵器は安全だ」と宣伝したアメリカ政府】
 当時も、この落下事故で近隣住民がどれほど危険にさらされていたのかが話題になったが、米政府は繰り返し、「核爆弾が、安全上の不備によってアメリカ人の命を危険にさらすことは絶対にない」と強調した。

 おりしも冷戦の真っただ中にあり、「核保有」の必要性が喧伝されるなかで、小さな疑問の声は、ケネディ大統領の人気にかき消されていった。

【明るみにでた衝撃の真相】
 しかし、去る20日、米国公文書の機密扱いが解けたことから、事故の真相が明らかになった、とガーディアン紙は伝えている。

 判明したのは、ぞっとするような大惨事の危険性だった。同紙によると、落下した水爆は4メガトン級で、いずれも広島に落とされた原爆およそ260個分の破壊力があったという。

 さらに、そのうち一発は、起爆を防ぐ4つの安全装置のうち、3つまでもがうまく作動しなかった。もし爆発していれば、首都ワシントンを含め、ボルティモア、フィラデルフィア、ニューヨークなどの大都市に死の灰が降り注ぎ、何百万人もの命が危険にさらされたかもしれない。この惨事を「紙一重」で防いだのは、もっとも単純な仕組みの「低電圧の単純な構造のスイッチ」だったという。容易に通電するこのスイッチが入らなかったのは「奇跡」といえるようだ。

 当時事故の検証を行った専門家は、機密報告書に淡々と「MK39Mod2爆弾は、B52に搭載して空輸するに足る安全性を有してはいなかった」という結論を書きこんでいる。

 核兵器に関する新著の資料として文書を紐解いたシュロッサー氏は、「情報開示の自由」を行使して、1950年から1968年までのわずか18年間に、1250発の核兵器が絡む、「重大な」事故や事件が少なくとも700件見つかったと述べている。

【使用期限を迎える旧核兵器】
 では、冷戦を後にし、核兵器削減が謳われる現在は、この種の危険はないのだろうか。

 そうではない、と指摘するのはロシア・トゥデイ。1960年代以前に作られたアメリカのもっとも古い原爆はすでに「使用期限」を過ぎ、向こう十年内には作動が「予測不能」に陥ると、アメリカ戦略軍が述べているというのだ。

 1960年代に、ソ連の応酬侵攻を食い止める戦略戦闘機やNATOの爆撃機向けの核弾頭として作られたB61はその代表格だ。欧州内のNATO基地に180発配備され、ノースダコタとミズーリに250発が備蓄されているというこの核弾頭は、今や約50年の年代物と化し、電子部品の老朽化によって、維持が「予断を許さない」状況になりつつあるという。専門家は、「近代化は絶対に必要だ。時間の猶予はない」と述べている。

 しかし、核兵器の近代化に要する費用は莫大だという。一発あたり2800万ドル、アメリカの核弾頭や種々のミサイル、さらにそれを搭載する飛行機その他を近代化するためには、総額650億ドルもの費用がかかるかもしれない。

 しかも、すでに近代化すらもままならない旧式の兵器もある模様だ。「核兵器に関して、われわれが直面する事態は非常に深刻だ」と、核兵器推進派のアナリストは述べている。

 異論もある。反対派は、そもそも、オバマ大統領主導で、ロシアとの核軍縮協議を進めているなかで、当初対ソ連を想定した核弾頭を刷新することは、本末転倒なのではないかと指摘しているようだ。

 さらには削減傾向にある軍事費から、この費用をいかに捻出するのかとの難題もある。

 維持するにも削減するにも、莫大な危険と費用を伴う核兵器。人類の未来を断ち切ってしまうかもしれない危機が今、そこにある。

Text by NewSphere 編集部