最大8000億円規模の原油盗難 ナイジェリア政府が積極策をとらない理由

 英国シンクタンク「チャタム・ハウス(王立国際問題研究所)」は19日、ナイジェリアでは犯罪組織が2013年の第1四半期に、少なくとも1日で10万バレルの石油を盗んでいると発表した。その調査報告によると、盗まれた石油は、西アフリカ、ヨーロッパ、アジア、米国の業者に売り渡されているという。

 大規模な窃盗は石油の価格を世界的に引き上げ、収入の80%が石油関連というナイジェリア政府の収入を減少させていると報告している。

 今回のチャタム・ハウスの発表は、ナイジェリア国外の独立団体による、不透明で複雑なナイジェリアの石油盗難に関する初めての詳細な調査報告だ。

【窃盗は石油パイプラインから】
 石油は、ナイジェリアの石油生産地帯のパイプラインやその他のインフラから直接盗まれているようだ。
 
 一部は、地方にある施設で簡素な手法で精製されるようだが、ほとんどは最長2キロほど管を使い小型船に輸送する。小型船が小さな入江や渓谷を進んだ後、石油は6.2万バレル積載することが可能な小型タンカーに積み込まれる。タンカーが満タンになれば、石油は深夜に「母船」に積み込まれ、大きな港から合法に購入された石油として出荷されるという。

 フィナンシャル・タイムズ紙によると、シェルやエニなどのナイジェリアで事業を行っている石油会社は、繰り返し、窃盗のためにできる損傷で、パイプラインからの漏れと原油の輸送に支障をきたしていると不満を政府に訴えてきた。

 これまでに、ナイジェリア軍は、数千に及ぶ小型船を拿捕し、多数の犯罪者を検挙したが、犯罪組織の幹部は、訴えられていないようだ。

【体制に深くはびこる汚職】
 窃盗の規模は、年間で30億ドルから80億ドルだという。これには、政治家、軍関係者、地方組織、犯罪組織、石油生産企業労働者、取引業者が関わり、彼らは、いわゆる「バンカリング」とよばれる不正な取引で利益を得ていると報告書は指摘している。

 「バンカリング」は、1970年後半に始まり、ゆるい監視体制と石油価格の高騰が拍車をかけ、ここ数年で特に盛んになっているようだ。

 ナイジェリアの原油盗難は、産業規模で行われており、世界の大きな金融機関で不正工作が行われている。そうしてナイジェリア国外の資産を購入するのに使われているという。

 報告書を作成したひとりクリスティーナ・カツリウス氏は、さらなる調査について、「ナイジェリア側の積極的な情報提供がなければ難しい。」「まず、ナイジェリア政府の協力があることが望ましい。」と述べている。

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、2012年にナイジェリア政府自身による窃盗に関する調査報告が発表され、当時の担当官がその緊急性を訴えたが、政府による積極的な対策は取られなかったようだ。

Text by NewSphere 編集部