米国、見捨てた?エジプト政権再転覆の影響とは

 エジプト軍は3日夜、モルシ大統領の権限を奪い、身柄を拘束した。これにより、同国で初めて選挙で選ばれた政権が、打倒されたことになる。
 与党の自由公正党やムスリム同胞団の政治家・指導者らが嫌疑不明のまま多数逮捕され、同系統の放送局も停波された。
 軍部トップのシシ国防相は、現憲法の停止や、マンスール憲法裁判所長官の暫定大統領就任を宣言した。シシ国防相は、政治的野心および「クーデター」という表現を否定した上で、超党派のテクノクラート暫定政権によって、早期に大統領および議会選挙を実行すると約束している。
 エジプトでは、経済状況の悪化やモルシ大統領の独裁姿勢により、6月30日の政権1周年を前に民衆の不満が高まっていた。これを受け、軍部が大統領に「最後通牒」を突きつけるに及び、大統領は連立政権や独立憲法委員会の発足といった妥協案を示唆していたが、間に合わなかった形となった。

【米国はモルシを見捨てた?】
 米国は憲法停止や政治家の逮捕などに「深く懸念を表明」し、透明なプロセスによる早期の政権委譲を求めた。ただし、軍部による政権転覆そのものを批判しモルシ大統領の復帰を求めているとは言い切れない内容であった。
 米国は2011年のムバラク政権打倒を支持していたため、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中途半端な態度として不信を集める可能性があると指摘する。
 なお米国はエジプトに年13億ドルの軍事援助を行っているが、米国の法規上、軍事クーデターと認められればこのような援助は行えなくなる。

【経済や海外への影響】
 経済難のエジプトはIMFに対し48億ドルの救済要請を打診中であった。しかし、交渉役である自由公正党・ハタブ経済委員が逮捕されてしまった上、新政権が国際的に認められるまではIMFの救済も不可能である。
 なおIMFは救済の代償として、増税や燃料補助金廃止を要求していたが、モルシ大統領は危険な政策と見てこれを嫌い、差し当たりカタールなどからの援助に頼っていた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、カタールにとってもアラブ世界での評判を稼ぐメリットがあったと指摘している。
 さらに同紙は、ムスリム同胞団はシリア内戦で反体制派を支援しているため、シリア内戦への影響も見逃せないと指摘した。

【分裂するエジプト】
 モルシ大統領やムスリム同胞団側は、民選大統領を否定する「完全な軍事クーデター」であると非難しつつ、徹底した非暴力不服従を呼び掛けている。
 しかし、すでに各地で、花火を上げて政権打倒を祝う反体制派と、涙を流して悲しむ政権派が衝突しており、数十人以上の死者が発生している模様である。
 また、アルアジャール学派のイスラム超保守派や、エジプト人の10%を占めるキリスト教徒は、反体制派が公約した「ロードマップ」への支持を表明。2011年のムバラク政権打倒革命を、権力独占により失敗に追い込んだとして、大統領や同胞団を非難している。

 各紙は、ムバラク政権打倒からわずか2年で、再び政権が民衆蜂起と軍部の介入によって覆ったことから、エジプトにおける民主化そのものの先行きを危惧している。ニューヨーク・タイムズ紙は、シシ国防相の提唱する、イスラムからリベラルまで混在させた超党派の暫定政権が正常に機能するのかどうかについても、懸念を指摘した。

Text by NewSphere 編集部