「原発再稼働への国民の声は?」海外紙の批判
原子力規制委員会が19日に発表した原発の新規制基準に対して、国内外からその意義が問われているようだ。
新基準は、2011年の福島第1原発事故の教訓を取り入れ、防潮堤の設置・強化などの自然災害対策や、テロも想定した緊急時制御室の設置、事故時に放出する放射性物質を減少させ原子炉格納容器の圧力を下げる「フィルター付きベント設備」の設置などを義務付けている。規制委員会は「世界で一番厳しい」基準だと公言しており、安倍首相も世界へ向けての原発輸出計画を進めていくべく期待を寄せている。
7月8日に施行され、電力会社からの再稼働に向けた適合性審査の申請を受け付ける予定だ。
しかし、時を同じくして、東京電力が福島第1原発で放射性物質の検出を発表した。海外各紙は、東電の発表と合わせて、新規制基準の効果について報じている。
【国民感情と乖離する原子力規制委員会】
東京電力の発表によると、福島第1原発2号機と海の間に設置している観測用井戸水から、高濃度の放射線物質が2種類検出されたという。検出された「ストロンチウム90」は国の放出基準の約30倍、「トリチウム(三重水素)」は約8倍、いずれも基準を大きく越えている。ストロンチウム90は骨肉腫や白血病の原因となるとも言われていると各紙は報じている。
これらは5月24日に採取した水から検出されたもので、31日には担当者が事態を把握していたものの、今月に入ってからの発表となっている。
東電は原因として、2011年4月に汚染水が2号機水口付近から海洋へ流れでた際に、その一部が電源ケーブルをつたって地中に浸透し、残留したものが地下水へと移行したと推測しているとブルームバーグは報じた。
また、現時点では海への拡散は確認されていないとしながらも、その有無を検証するべく近くの海水を分析中だという。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「海水への影響が確認されていない段階では、事の深刻さを確定するのはまだ早い」という規制委の田中委員長のコメントを取り上げ、原発の危険性を懸念する人々との温度差を浮き彫りにしている。
フィナンシャル・タイムズ紙は、新規制基準の発表会場にて「国民の声に耳を向けろ」や「再稼働反対」と叫ぶ声がたびたび飛び交ったと報じている。福島原発事故の恐怖が人々の記憶にまだ強く残っているうちから、政府が積極的に原発再稼働に向けて動き出すことは、逆に不安を募らせかねないと指摘している。
各紙とも、国内で実施された世論調査で半数以上が原発に反対しており、賛成派は30%であったと報じている。
【電力会社各社、再稼働申請の意向を表明】
国内にある原発は50基で、48基が安全確認のため停止中だ。唯一稼働している大飯原発の2基は、点検が予定されている9月まで稼働する見込みで、その後は新規準の適合審査を受けなければならない。
各電力会社は、新基準を満たした上で、再稼働を申請することになる。現時点で申請の意向が明らかにされているものとしては、関西電力の大飯3,4号機と高浜3,4号機、北海道電力の泊1~3号機、九州電力の川内と玄海、四国電力の伊方、東電の柏崎刈羽などだとブルームバーグは挙げている。
規制委員会は審査の所要期間を明確にはしていないが、6カ月程度と伝えられている。少ない審査チームで実施することや、基準を満たすためには大規模な設備投資が必要であることなどから、新基準が施行されてもすぐに再稼働とはならない見込みだ。