インドの特許訴訟で製薬会社が敗訴 判決にあらわれた根深いジレンマとは?

インドの特許訴訟で製薬会社が敗訴 判決にあらわれた根深いジレンマとは? インドで行われていた、抗がん剤「グリベック」の特許をめぐる訴訟で、スイスの製薬大手ノバルティス社の敗訴が4月1日に決まった。南アジア諸国で業務展開する多国籍医薬品会社にとってさまざまな影響を及ぼし得る、節目の判決となった。
 歴史的な判決に世界の大手製薬会社は非難したが、公衆衛生を訴える活動家らは、発展途上国に割安なジェネリック医薬品を製造するインドの能力を保護すると称賛した。

【訴訟の発端】
 2006年1月から7年間に及んだこの訴訟は、インドの特許局が「グリベック」の特許を自国の市場で認めようとしなかったことが発端であった。グリベックの主成分が既存薬の成分を少し変えただけのものであるため特許を認めたかったノバルティス社はこの判決を受け入れずに上訴するも、敗訴したため、新たに訴えを起こし、ニューデリーの最高裁が決断を下すことになったとニューヨーク・タイムズ紙は報じている。

【賛否両論】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は同判決に対する様々な反応を報じた。ノバルティス社の関係者は総じてこの判決を強く非難。インド事業の副会長兼マネージングディレクター、ランジット・シャハニ氏は「棄却は患者にとって重大な敗北を意味し、治療過程を阻害する」と述べ、同社の広報担当もインドでの新薬発売をためらうと発言する。
 一方で、国境なき医師団(MSF)は、エイズなどの治療に割安なジェネリック医薬品を発展途上国へ提供するインドに大きく頼っており、今回の判決を称賛しているという。

【氾濫する医薬品】
 フィナンシャル・タイムズ紙は入り乱れる双方の思惑に注目する。インドではジェネリック医薬品の製造が盛んであり、価格も安いことから、発展途上国で使用されているエイズ治療薬の半数以上がインド製だという。
一方製薬会社側は、インドで簡単に「コピー薬」が製造されることで、高額な費用がかかる新薬の開発が困難になると批判している。
 製薬市場で革新性を守りたいノルバティス社と、貧困層にも提供しやすい安価な医薬品を保護したいインドと、意見の相違・対立は今後も続くだろうと同紙は予測している。

Text by NewSphere 編集部