ロシア対アメリカ 養子をめぐる対立

ロシア対アメリカ 養子をめぐる対立 19日、ロシア下院で、米国民がロシアの子供と養子縁組することを全面禁止する法案条項が、全会一致に近い大差で可決された。法案には他に、アメリカ出資のNGOにロシアでの政治活動を禁止する条項も盛り込まれた。これらの修正案を加えて法案が発効するには、まだ上院での採決や大統領署名などが必要だが、ロシア議員たちは熱狂的な勢いにある。

 この法案の背景には、下記のような事件があると報じられている。まず2008年、米バージニア州で、21ヶ月の幼児がアメリカ人養父によって9時間車に放置され死亡した事件(養父は無罪)。そして2010年、7歳のロシア少年が、アメリカの養母により、“これ以上彼の母親をしたくない”とのメモとともに、単独で飛行機に乗せられ送り返されてきた事件がある。ロシアには約10万人の孤児がおり、両国間の養子縁組は従来盛んであったという。実際アメリカは、ロシア孤児の最大の受け入れ先であり、逆にアメリカからみても、ロシアは第3位の受け入れ元である。両国は昨年、養子縁組に関する条約を結んでいたが、ロシア下院が可決した法案が発効すれば破棄される事になる。

 ただ、実際のところこの法案は、アメリカで今月可決された「マグニツキー法」への報復という様相を呈している。背景としては、米ヘッジファンドの弁護士セルゲイ・マグニツキーが、2億3400万ドル(約190億円)とされるロシアの警察・治安当局の不正を告発して投獄され、「適切な医療を拒否されて」2009年獄死した事件がある。これに抗議するアメリカが、「人権侵害の疑いがあるロシア人に対し、ビザの拒否や資産凍結」を講じるマグニツキー法を承認した。当然ロシアでは猛反発が起き、内政干渉、あるいはアメリカのイラクなどでの人権侵害を棚に上げて偽善的だ、などと声があがっている。また、アメリカが反クレムリン派を支援しているとの主張もあった。

 しかし、閣僚も含め、ロシア国内でも法案に対し慎重な声はある。統計的に養子の死亡例は少なく、むしろロシア国内で生活する方が危険だとの意見や、海外縁組を全面禁止してしまえば、困るのはアメリカよりも当の孤児たちだとの意見、法案はマグニツキー事件の関係者を守るためではないかとの意見などである。
 プーチン大統領は、議員たちの「感情的反応」について充分に理解できるとの声明を出しているが、最終的に法案に署名するつもりかどうかは明らかにしていない。なお、プーチン大統領は、来年のオバマ米大統領の訪問については歓迎する意向だとされている。

Text by NewSphere 編集部