慰安婦問題合意、欧米メディアはどう捉えたか? 韓国政府に待ち受ける難しい舵取り

 28日、日本と韓国は「最終的かつ不可逆的に」慰安婦問題を解決することで合意。慰安婦支援の目的で韓国が財団を設立し、日本政府が約10億円を拠出することも決まった。長年に渡って両国関係の障害となってきた問題解決にようやく目処がついたことを欧米紙は評価しつつ、問題の本質や今後の課題を考察している。

◆日韓関係修復の大きな一歩
 今回の合意には戦略的な配慮があったと多くの欧米メディアが指摘する。ガーディアン紙の社説は、日韓の合意は、台頭する中国や予測不能な北朝鮮を前に、安全保障面での協力を強化する必要があると両国が認識した結果だとし、それが同盟国であるアメリカの求めでもあった、と述べる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)も、中国の台頭や北朝鮮の挑発により試されている東アジアにおいて、アメリカは最も重要な同盟国である日韓のもめごとに頭を悩ませていたと説明。合意に少なからずアメリカの意向が働いたという見方を示した。

 ガーディアン紙は、日本に否定できない責任があるのは事実だが、当時、慰安婦となる女性たちを騙して連れてきた韓国人悪徳業者や日本人斡旋業者にも責任があるとし、慰安婦問題は今後も論争であり続ける複雑な歴史であると述べる。アメリカのプレッシャー以外にも、過去を考慮し真摯に以前の敵の要求に対応すべき、という訪日時のメルケル独首相の言葉が影響したかもしれないという同紙は、今回の判断においては、安倍首相は先を見る力があったと評価。「最終的かつ不可逆的に」解決するという合意は「明らかな一歩前進」としている。

◆慰安婦問題は不適切な戦後処理の結果?
 一方、ウェブ誌『Vox』のマックス・フィッシャー氏は、多くの米メディアがアメリカのプレッシャーが慰安婦問題解決に向かわせたと報じるが、実は安倍首相の狙いは今回の合意で韓国、中国から点数を稼ぎ、自らがもくろむ日本の軍国化への余地を作ることだという、かなり飛躍した理論を展開している。同氏の記事は韓国寄りだが、慰安婦問題の本質については、非常に興味深い意見を述べている。

 フィッシャー氏は、慰安婦問題は戦時の問題として捉えられがちだが、実は戦後処理が起こした問題だと指摘する。同氏によれば、連合国による日本の戦争裁判を支配したのは白人の戦勝国で、11人の裁判官のうち3人のみがアジア人。しかも韓国人は一人もいなかった。一方ドイツの裁判の場合は、犠牲者が戦犯調査に加わることが許可されたため、彼らの言い分が通り、正義がなされたと感じることができた。戦後、犠牲になった国の人々とドイツ人との平和的共存が可能になった理由はここにあると、同氏は指摘する。ところが、韓国や中国にはこのようなチャンスがなかった。結果的に韓国では、自国に対する日本の罪に正義がなされたことはないという不公平感が煽られ、「慰安婦」が、いまだに続く国家的犠牲の例えのようになったと、同氏は見ている。

◆今後は韓国のかじ取り次第
 WSJ紙は、今後の問題は韓国において合意が「最終的かつ不可逆的」と見られるかどうかだと述べるが、さっそく政府間の決定に正義はないと感じる人々が、声を上げ始めている。韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)は、今回の合意は「外交的恥辱」と表明。日本は軍の「関与」は認めたものの、慰安婦制度を作り運営していたのは日本軍だったことを明白にしていないとし、「責任回避だ」と憤っている。

 ワシントンの戦略国際問題研究所の韓国理事、ビクター・チャ氏は、韓国政府は市民団体や野党からの批判を含む「複雑な国内事情」をうまく管理することで、今回の合意における韓国側の役目をやりきらなくてはならないと指摘。しかし、市民団体が抗議や訴訟の対象を政府に向ける可能性もあるとし、今後のかじ取りの難しさを示唆している(WSJ)。

 WSJは、これまで日韓の間の火種であった日本大使館前の慰安婦像に関しては、今や韓国政府と慰安婦支援者の間の問題になっていると指摘。挺対協は、像を「我々の公共の資産」と呼び、韓国政府が撤去や移設に関し、口出しすることはできないと述べている。チャ氏は、合意履行の精神の一部として、日本は期待しているだろうが、感情的に敏感な問題だけに、像の移設がすみやかに行われることは考えにくいとしている(WSJ)。

 戦後70年の今、やっと解決への一歩を踏み出した慰安婦問題。今後の行方に注目したい。

Text by 山川 真智子