韓国とは「価値観を共有」せず? 「右傾化の加速」と韓国紙は反発 外務省HPの表記変更受け

 外務省のHPの韓国に関する記述が、「我が国と、自由と民主主義、市場経済等の基本的価値観を共有する」から、「我が国にとって最も重要な隣国」に置き換わった件が、韓国内で大きな波紋を呼んでいる。韓国メディアは一斉に朝日新聞発のこのニュースを後追いし、批判や分析を加えている。

◆朝日報道を受け韓国メディアが騒然
 外務省HPの「表現の変化」を最初に報じたのは3月4日付の朝日新聞だ(記事化以前には、浅羽祐樹・新潟県立大学政策研究センター准教授がTwitterで指摘していた)。同紙は3月2日にこれを確認したとし、安倍政権の韓国に対する意識の変化が背景にあるとみられるなどと報じている。記事には、「最近よく使われる表現に合わせた」という外務省関係者のコメントと共に、産経新聞の元ソウル支局長が、昨年10月に韓国の検察に朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する名誉棄損罪で起訴された件が日本政府の不信感を生み、それが大きく影響しているとする政府関係者の見解が紹介されている。

 韓国の中央日報は、この朝日報道を受け、そうした不信感が反映されている証拠として、安倍首相が近年の演説で用いてきた韓国を表現する言葉の変化を挙げる。それによれば、首相は2013年2月には、「自由と民主主義のような基本的価値と利益を共有する最も重要な隣国」としていたが、翌年には「基本的価値と利益を共有する最も重要な隣国」に、今年2月の施政方針演説では現在の外務省HPと同じく「最も重要な隣国」となった。その表現は「時間が経過するほど後退している」と、同紙は記す。

 また、ハンギョレ新聞は、日韓議員連盟の韓国側の国会議員たちが1月に来日し、安倍首相を訪ねた際、首相が従来の「自由と民主主義の基本的価値観を共有する隣国同士」ではなく、「戦略的互恵関係にある重要な隣国同士」と述べたことを強調する。同紙は、韓国メディアの日本特派員たちはこれに一様に驚き、「もう両国は基本的価値観を共有していないと言いたいのか」と疑念を抱いたと記している。同紙はこれについて、日韓が民主主義などの価値観を共有するのは「1998年の金大中大統領と小渕恵三首相の共同声明以来の二国間関係の構築の出発点であるべきだ」と批判している。

◆日本政府内に「韓国にはもう本音を言っていい」という空気?
 各韓国メディアは、韓国政府や同国識者の反応も取り上げている。朝鮮日報などによれば、韓国外交部(外務省)は「どのような経緯で変更したのかは日本政府が説明すべきことだ」と、公式には特にこの件で動くことはなく、日本政府の動きを注視するとしている。

 一方、釜山にある東西大学客員教授のチョ・セヨン氏は「日本の外務省の表記の変化は偶然ではなく、安倍首相の見解を反映しているように思う。最近の日本の韓国の動きに対する不満の現れだろう」と、ハンギョレ新聞にコメントしている。民間シンクタンク、世宗研究所のチン・チャンス日本研究センター長は、「産経新聞支局長の問題というよりも、これまで韓国政府が歴史問題にばかり集中、中国を重視したことに対する不満を表わしたもの。より重要なのは、日本政府内部にそうした不満に対するコンセンサスが広範囲に形成されているということだ」と分析している(朝鮮日報)。

 朝鮮日報はさらに、「日本政界に『どうせ安倍政権と朴政権は何の進展も果たせない。中国は重要なので配慮するが、韓国にはこれ以上配慮する必要がない。本音を言ってしまってもいい』という雰囲気が強まっている。安倍談話を準備する専門家の集まりも中国専門家ばかりで、韓国専門家はいない」という日本の識者の解説を載せている。併せて、慶応大学の韓国人講師の「日本政府は靖国参拝などのこれまで自制していた行動をもう抑えなくなる可能性がある」というコメントを引用している。

◆外務省報道官「朝日新聞は朝日新聞の解釈をすればいい」
 米外交誌『ザ・ディプロマット』にも、韓国人記者がこの問題に関する記事を寄せている。同記事によれば、多くの韓国メディアは表現の変化を「日本の右傾化が加速している証拠」だと捉えているという。また、「安倍政権が今年の戦後70周年セレモニーで村山談話を取り下げようとしている兆候」だと見るメディアもあるとしている。『文化日報』もそうした見解を示すメディアの一つで、「日本は、韓国の日本の右傾化に対する懸念を無視し、過去の行いを否定しようとしている」と批判しているという。

 また、「両国の軋轢は一般市民の間にも見られる」と、最近の日韓の世論調査結果を紹介。日本の調査では過去最高の66.4%が「韓国に親しみを感じない」とし、韓国では「日本政府の右傾化が韓日関係の懸念材料である」ことに、83.6%が同意したという。一方で同誌は、「『重要な隣国』という表現を維持したのは、関係改善のシグナルだ」という日本の識者の反論も紹介している。

 当の外務省は、伊藤恭子国際報道官が韓国メディアの質問に答えている。「個人の意見が任意に突出することはない。変更された事項は部署全体が責任を負う。個別の内容については一つ一つコメントしない」と述べたうえで、朝日新聞が指摘する産経支局長問題との関連については、「そうだとも、そうでないとも言わない。日本は言論の自由がある国なので、朝日新聞は朝日新聞の解釈をすればよい」と答えた。また、別の外務省関係者は、「数多くの問題に関連して韓国に対し挫折感があるのは事実だ」とコメントしたという(朝鮮日報)。

Text by NewSphere 編集部