豪議員“日本の提案は詐欺” 潜水艦「共同生産」報道に現地は強く反発

 日本の「そうりゅう」型が有力候補に挙がっているオーストラリア海軍の次期潜水艦選定問題で、防衛省がオーストラリア側に共同開発及び共同生産を提案したと、5日付の毎日新聞が報じた。これを豪地元紙やその他の海外メディアが取り上げ、現地に波紋を呼んでいる。

◆特殊鋼材などを共同開発、豪で最終組立
 毎日新聞の報道によれば、この新たな提案は、「そうりゅう」型の完成品を日本から輸出するのではなく、船体に使用する特殊な鋼材や音波を吸収する素材技術を新たに共同開発し、日本側は船体の主なパーツの生産と組み上げを担当、豪側は一部の部品の生産に加え、最終的な建造と整備を行うというもの。

 同紙は、豪側も前向きな姿勢を示しており、「2015年中にも正式に合意する可能性が高まっている」としている。また、その狙いについては、「日本側は豪側への全面的な技術提供には慎重だが、(中略)日本国内企業の生産力強化につながると判断した」と記している。

 これを取り上げた豪紙『ザ・オーストラリアン』とAFPによれば、豪国防省は「次期潜水艦の開発と製造については、まだ何も決まっていない」と、コメントを控えている。代わりに、「日本を含む数ヶ国と潜水艦の件で協議している」と、選定作業自体は進行中だというコメントを発表した。日本とシェアを争っているのは、ドイツとフランスの軍需産業だと言われている。

◆「妥協という名の詐欺だ」と反発の声も
 今回の日本側の提案の意図を、AFPは「完全輸入となれば、国内の造船業が致命的な打撃を受ける」という豪国内の懸念を和らげるためだとしている。しかし、造船業の拠点である南オーストラリア州政府や連邦議会の野党議員からは、今回の日本の提案に対して早速非難の声が上がっている。

 地元紙『ザ・アドバタイザー』によれば、同州政府のジャック・スネリング防衛産業担当相は「我が国の次期潜水艦は、オーストラリアの鉄とワールドクラスの熟練したオーストラリアの労働者によって、オーストラリアで造られなければならない。それ以外は妥協であり、選挙公約違反だ」とコメント。従来から輸入に反対しているニック・ゼノフォン議員は、日本の提案を「妥協という名の詐欺」と切り捨てた。

 次期潜水艦選定を巡っては、自国の国営造船企業に対し、「カヌーを造る」にも値しないというニュアンスの発言をしたとして、ジョンストン前国防相が昨年のクリスマス直前に解任されている。代わって就任したアンドリューズ国防相は現在、アボット首相と外遊中のため、日本側の提案についてコメントしていないという。豪国防省は、「アンドリューズ大臣はまだ、次期潜水艦計画について十分なブリーフィングを受けていない状態だ」としている(『ザ・アドバタイザー』)。

◆「日本の安全保障に資する」と判断か
 「そうりゅう型」が有力候補だとされる主な理由は、「広範囲の哨戒が可能な航続距離と静音性を兼ね備えた通常型潜水艦」という豪海軍の要求に最も近いからだとされている。また、米海軍との共同作戦を前提にしている「そうりゅう」であれば、台頭する中国の脅威に対し、日米との連携が取りやすくなるという指摘もある。

 昨年4月に閣議決定された防衛装備移転三原則では、「救難、輸送、警戒、監視、掃海」などの用途に限定して武器輸出を認めている。ただし、それ以外の用途でも「国際共同開発・生産」については、日本の安全保障に資する限りは認められている(毎日新聞)。「準同盟国」と位置づけているオーストラリアへの今回の提案は、それに当てはまるという判断があったようだ。

 一方、オーストラリア側にとって、予算面では「輸入」の方が有利だとされる。AFPは、日本から「そうりゅう」型の完成品を輸入した場合のコストは250億オーストラリアドル、国内で建造した場合は500億から800億オーストラリアドルかかるという試算を紹介している。

Text by NewSphere 編集部