改憲、脱米軍…安倍首相の野望に、米識者が疑問 日米同盟基軸の現状維持を主張

 日本の将来を左右する今後の防衛戦略について、アメリカの2人の知日派がメディアに分析記事を寄稿している。一人は、米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)アジア太平洋部門のブラッド・グロッサーマン氏で、日米同盟を基軸とした「現状維持」を現実的な選択肢に挙げている。一方、日本で長年ビジネスや研究をしてきた元米国務省官僚のスティーブン・ハーナー氏は、安倍首相が掲げる「積極的平和主義」を分析し、持論を展開している。

【国民心理的には「現状維持」が妥当】
 グロッサーマン氏は、オーストラリアのシンクタンク『インタープリター』のオピニオンサイトに寄稿し、安倍政権の狙いと最近の国民感情を基に、優位度が高い順に以下の3つの選択肢を提示している。

1. 日米同盟を軸にした現状維持・・・国民心理的にも構造的にも、最もバランスの取れた選択肢。
2. 核武装・・・国民に強固な反核感情があるので基本的には不可能。万が一実現しても純粋な防衛用に留まる。いずれにせよ、核武装を推し進めれば日本は孤立し、かえって防衛上の安全性は損なわれる。
3. 中国の弟分になる・・・日本人は中国との競争に疲れている。反面、中国の下位に甘んじることもプライドや中国に対する感情から望まないだろう。したがって、中国が自ら大きく変化し、日本を脅すことをやめた場合にのみ可能性がある。

【「日本人は競争に疲れている」】
 グロッサーマン氏の論の根拠の一つになっているのは、安倍政権の目指すものと国民意識が乖離している面があるという見方だ。同氏は、安倍政権が対中防衛に主眼を置きながら軍事力の独立性を高め、「一流国家」としての地位を再構築しようとしているのに対し、国民の大半はそれを望んでいないと記す。

 同氏は、2011年3月の震災の悲劇以来、「日本人は競争に疲れている」とし、「大半の日本人は現在の世界での地位に満足しており、(アベノミクスが目指す)再生のために求められている変化に懐疑的だ」と持論を展開している。

 また、こうした国民意識に加え、少子高齢化、国の借金の増加など多くの壁が「安倍首相と仲間のインターナショナリスト」の前に立ちはだかると指摘。そのため、「大国の地位」を取り戻そうとする安倍首相らの野望達成は難しいとの結論に至り、「現状維持」を優先度の高い選択肢に挙げたようだ。

【「積極的平和主義」で中国を封じ込める】
 一方のハーナー氏は、安倍首相の望みは「第2次世界大戦の敗北によって形作られた」国から「普通の国」へと脱却することだと、フォーブス誌に記す。

 防衛政策については、安倍首相の夢は日本が米軍の駐留を必要としなくなることだとしている。そのためには、「実質的にアメリカの保護領」である現状とどう折り合いをつけるかという問題が大きく立ちはだかり、「場合によっては何十年もかけてアメリカに頼る振りをしながら裏で独立した防衛力を作り上げる」といったしたたかさが必要だと記している。

 また、「積極的平和主義」に基づいて改訂された最新の防衛白書が掲げる「アジア太平洋地域の安定」について、ハーナー氏は次のように“翻訳”する。「インド、フィリピン、ベトナム、オーストラリアなどの国々と新たな軍事的な協力関係を築き、ペンタゴン(米国防総省)の『中国封じ込め戦略』を全面的に支援、時には主導する」。ただし、同氏は2012年にアジア全体の防衛費がヨーロッパのそれを初めて上回った事を挙げ、「これはアジアの人々にとって悲劇だ」と、現状を歓迎してはいないようだ。

Text by NewSphere 編集部