「安倍首相、最大の敵は自民党」? 靖国参拝や集団的自衛権などめぐり、海外紙が分析

靖国神社

 安倍晋三首相は、靖国神社の春季例大祭に合わせ、21日に、首相名で真榊(まさかき)を奉納する方針を固めたと報じられている。首相自身の参拝は見送る方向だという。

【安倍首相「靖国神社は代替不可能」】
 安倍首相は17日、靖国神社は単に日本の戦争記念施設として語られる以上の存在だ、と述べた(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。「(靖国神社は)追悼のための中心となる施設であることは事実だ。戦没者の家族もそのように感じているだろう」とし、政府の指図でその事実を変えることはできない、と話したという。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、戦没者慰霊のための施設を新たに建設、あるいは指定するという政治家や有識者の提案を首相が拒否し続けている、と報じている。安倍首相は、日本国憲法では、政教分離を謳っており、政府が宗教的施設に関与することはできない、と説明しているようだ。

 千鳥ケ淵戦没者墓苑を追悼施設として替えたらどうか、という提案はしばしば聞かれる。天皇家は、靖国には参拝しないが千鳥ケ淵の追悼式には首相と同様に出席する。また、中国・韓国も、これについて声高な非難はしていない。

 安倍首相は、靖国とアメリカのアーリントン国立墓地をしばしば同列で語るが、千鳥ケ淵のほうがより近い存在だ、と同紙は指摘している。実際、アメリカのケリー国務長官とヘーゲル国防長官は、2013年10月の来日に際して、同施設を訪れ献花した。

【安倍政権最大の敵は身内に?】
 靖国参拝などに関して、ディプロマット誌は、「安倍首相の最大の敵は自民党」と報じている。

 2月19日、内閣総理大臣補佐官の衛藤晟一氏は、安倍首相の靖国参拝に対するアメリカ側の「失望した」という発言を非難する映像をYouTubeに投稿した。これが国内で報じられると、菅義偉官房長官は衛藤氏に、発言を撤回するよう求めることとなった。同時に、発言は日本政府による正式なものではないと釈明した。

 自民党の有力派閥を率いる町村信孝元官房長官は、発言を「百害あって一利なし」とし、安倍首相本人を直接非難してはいないが、首相の任命人事については怒りがおさまらないようだ(ディプロマット誌)。

 安倍政権は政策決定の過程で、「閣内重視、党内調整はほどほど」というやり方をとっていることも批判されている、と同誌は指摘している。

 また首相は、集団的自衛権を容認する憲法の再解釈について、「最終的な責任は自分にある」と発言しているが、自民党議員らは、党を軽視している一例だと見ているという。自民党総務会は2月21日の会合で、党議を経ずに集団的自衛権行使についての法改正を閣議決定しようとの首相の動きに明らかな疑問を呈した。

 同首相はこのような反発を受けて、決定を国会閉会後に延期することを検討せざるを得なくなっている。与党内に話し合いの場を設け、公明党との協議の前に、党内意見の統一を図りたい考えだ。

【首相の靖国参拝は国民の権利侵害と】
 安倍首相の靖国参拝に対し、11日、原告546人(戦没者遺族含む)が、首相や国、靖国神社を大阪地裁で提訴した。平和的生存権を侵害されたとして、今後の参拝差し止めや原告1人当たり1万円の慰謝料を求めている。

 中国国営新華社通信は、13人から成る弁護団のひとり大川一夫氏のコメントを報じている。裁判に訴えることで、国民の関心を集め、将来の選挙で有益な投票がなされることを望んでいるとも述べたという。さらに同氏は、安倍首相の靖国参拝は、日本の憲法に違反し、許されない動きだと語った。自身のブログでも、「公式参拝はそもそも憲法違反で許されないものである」と述べている。

 なお安倍首相の昨年12月の参拝について、菅官房長官は私人としての参拝と説明していた。ただ、公用車で靖国神社に向かい、「内閣総理大臣安倍晋三」と記帳し、内閣総理大臣として「恒久平和への誓い」という談話を発表している。前述の弁護士も、こうしたことを踏まえて「公式参拝」と批判していると考えられる。

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Text by NewSphere 編集部