増える高齢者の運転事故 海外では限界に気づいてもらい自主返納を促す取り組み

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 高速道路の出入り口を間違えて反対車線を走る、アクセルとブレーキを間違えるなどが原因による、高齢者ドライバーの交通事故が報じられることが多くなった。平成27年の運転免許保有者数は8,200万人強だが、そのうち70歳以上の保有者は11%で、10人にひとりになる。

◆高齢者は本当に危険なのか?
 高齢者が増えれば、ドライバーが起こした事故全体に占めるその割合は当然高くなる。注意して見たいのは、高齢者が事故を起こす確率が他の年代に比べ、高いのか低いのかである。警視庁の「平成27年における交通事故の発生状況」(平成28年3月)によると、年齢階層別の免許保有者(原付以上)の10万人当たりの年間の交通事故発生件数は、16~19歳がもっとも多く1,888件、以後、年齢を重ねるごとに件数は下降し、35歳以上から60代までは500件台という低い位置での推移となる。つまりこの年代は事故を起こすリスクは低い。しかし70代は662件と再び上昇し、85歳以上では811件になる(いずれも平成27年中)。10代や20代よりは低い件数とはいえ、70代を迎えると事故を起こすリスクが高くなるのは間違いなさそうだ。

◆自分の運転技術への過信も関係
 年を取れば記憶力が低下する。一度にいくつも話をされると混乱することもある。体の反応は遅くなり、柔軟性が失われるので後方確認ができにくくなる。視力や聴力も否応なしに衰えてくる。自動車運転は刻々と変化する交通状況や指示標識を瞬時に判断し、危険な場合は的確に回避しなければならない。加齢とともに不向きになるのは仕方がないことだろう。

 しかしその自覚が少ないのが問題なのかもしれない。国民生活センターのWeb誌『国民生活』2016年11月号に立正大学心理学部教授の所正文氏が寄稿した記事「超高齢化社会と自動車交通」にはそれを裏付けるデータがある。「自分の運転テクニックなら十分に危険が回避できるか」という質問に、30代は10%でもっとも低く、50代が18%、以後は上昇し、75歳以上では53%が「回避できる」と答えている。身体的に運転に不利になる一方、自信はそれ以上に高まるため、免許返納に応じる気持ちにはなれない理由もここにある。所教授によると、欧州先進国では免許の自主返納へと導く社会環境が整っており、年齢にかかわらず厳しい条件が課せられているので、それを超えることが難しいと感じることで免許返納へと導かれているとのことだ。

◆欧米の高齢者の事故
 どこの国の人でも年齢を重ねることで運転は困難になってくる。先の警視庁の統計と同じようなデータが欧米にもある。そして高齢者ドライバーによるブレーキとアクセルの踏み間違いによる暴走などで多数の死傷者を出す事故が起きている。

 家族にとっても困難な問題になっている。USAトゥデイは、年老いた両親へ運転の中止をいつ進言するべきかについて、その難しさを報じている。交通機関があまりない地域では事実上の交通手段を失うことになり、うつ病を招くこともあるとの専門家の意見を引用し、多くの家族がこの問題に苦しんでいると伝えている。

◆自主性を促す必要性
 安全運転を実践してもらうには、やはり高齢者ドライバー本人が高齢であるがゆえの運転上の問題に気づいてもらうことが第一だろう。

 イギリスには、運輸省による「OLDER DRIVERS FORUM」の『OLDER DRIVERS』というサイトがあり、「高齢者のドライバーは経験も豊富で自信と思いやりもある」と肯定し、より快適に長く運転してもらうためのフォーラムやイベントを主宰している。身体的な検査のほか、技能評価、運転の講習などを実施し、その情報の共有と拡散に努めている。

 また、アメリカ自動車協会にも『SeniorDriving.AAA.com』がある。コンセプトは「体調管理とドライビングスキルを保って末永く安全運転を続けてもらうための情報の提供」とある。ドライビングに必要な力を維持するためのエクササイズから、所有する車のドライバーとの適合度のチェック、運転力向上のためのレッスンなどがあり、その中で加齢とともに運転能力も衰えていくことを自然に学ぶことになるようだ。

 OLDER DRIVERS とSeniorDriving.AAA.comに共通しているのは、加齢による衰えを肯定的にとらえている点だ。「長く安全に運転してもらう」という目的の一方で本人にも自分の限界に気づいてもらう仕組みになっている。サイトに引用されている写真は、どれもお年寄りが楽しげに運転をしている様子。やさしく親愛の情で接触してはいるが、伝えているのは高齢者ドライバーには厳しい現実なのかもしれない。欧米人らしいコミュニケーションのうまさとも言える。

 一方的に「歳だから運転は危険」と訴えても本人はより頑なに「大丈夫」と主張するようになるだろう。日本も自動車大国ならば、熟年や高齢ドライバーが運転の模範となれるような仕組み作りが求められるのかもしれない。その過程で模範運転も生まれ、自らの運転技能の限界を悟ることにもなるのではないか。

Text by 沢 葦夫