相模原事件が世界に与えた衝撃 “あの日本で!?” “宗教とは関係ない” “世界に一体何が…”

 19人が死亡、26人が重軽傷を負った神奈川県相模原市の知的障害者施設襲撃事件は、海外メディアでも大きく報じられている。アメリカやイギリス、ドイツで銃撃事件が相次ぎ、バングラデシュ、サウジアラビア、フランスでは大規模なイスラムテロが続いたタイミングでの事件とあって、なおさら高い関心を呼んでいるようだ。各メディアの電子版の記事にはいずれも大量の読者コメントがついている。その中から米ワシントン・ポスト紙(WP)、英大衆紙デイリー・メール、アラブ圏の衛星放送局アルジャジーラの記事から、反応をピックアップした。

◆銃がなくても決して安全とは言えない
 WPは、「日本は非常に凶悪犯罪の少ない国だ。昨年は1億2700万の人口のうち、銃で死亡したのはヤクザ関係の1人だけだ」と、安全神話がある日本で起きた最悪レベルの大量殺人事件に驚きを隠せない。同紙は事件の詳細を伝えるメインの記事と共に「なぜ、日本で大量殺人事件が非常に稀なのか」と題した事件に絡めたレポートも掲載している。そちらでは、「この事件を非常に特異なものにしているのは、それが起きた国だ。日本は、他の近代社会と違い、他国を襲った大量殺人からはほぼ逃れてきた」と書く。

 同記事は「アメリカの読者にとって特に関心が高いのは日本には銃がほとんどないことだろう」と、特に銃規制の厳しさを治安の良さと結びつけている。しかし、この一文に対しては、コメント欄では批判が多い。読者の一人は「アメリカの白人の銃による死の80%は自殺だ。日本の自殺率は我が国よりもずっと高く、日本人は銃以外の方法で自殺を試みている」とコメント。別の読者も「日本の文化はアメリカとは全然違う。この種の比較は無意味だ」と反論している。また、メイン記事の方には、「善良な人々には銃規制は必要ない。なぜなら善良な人々は犯罪を犯そうとしないからだ」と、やはり日本の銃規制の厳しさを肯定的に捉える論調に疑問符を投げかける意見が寄せられている。

 デイリー・メールには、香港の読者から「とても悲しい。そして、とても非日本的だ」という、安全なはずの日本で起きた事件に驚くコメントが寄せられている。これに対しては、英国の読者が「それは違う。日本発のニュースを読んでみろ。日本ではナイフによる殺人が頻繁に起きている」と反論している。同紙は、今回の事件について、「最も犯罪率が低い国の一つである日本に衝撃を与えたようだ」と書く一方、2001年の大阪教育大学附属池田小学校事件、2008年の秋葉原事件、昨年の淡路島事件、今年の地下アイドル襲撃事件など、最近の日本で起きたナイフによる大量殺人・襲撃事件を列挙している。

◆「宗教と凶行は無関係」
 相模原市の現場からレポートしたアルジャジーラの記者は、事件が非常に衝撃的である理由に、「被害の甚大さと残虐性、背景にある屈折した理屈、そして、やろうとしていたことを詳細に公開していたにもかかわらず、実行できたという事実」を挙げた。そしてやはり、平和なはずの日本で起きた惨事に日本人自身も驚いていると、「どこか外国で起きた事件だと思った」という日本人のツイートを紹介している。

 アルジャジーラのコメント欄には、イスラム過激派テロとの比較を念頭に、「イスラム」というキーワードが目立つ。「アラーの名の下に」と前置きするコメント主は、「反イスラムの人々は、この種の襲撃事件は宗教とは全く関係がないという事実に直面しているだろう。神を信じているかどうかにかかわらず、誤った人間は、無実の人に間違ったことをする。(宗教を否定する)中国の共産主義ではそれが多く起きている」と、事件をイスラムテロと結びつける見方を牽制する。

 また、アルジャジーラのコメントの中には、日本が戦後、事実上アメリカの“占領下”にあるという認識も目立つ。事件をダシにして、「サイコパス的なアメリカンスタイルの凶行だ。民主主義の輸出に失敗したサイコパス(アメリカ)は今、暴力と狂気の輸出に成功した」といった反米感情をあらわにするコメントが散見される。一方、デイリー・メールには、イスラムテロを含む無差別襲撃事件の頻発を憂い、世界を覆う不穏な空気に不安を訴えるコメントが目立つ。その一人は、「我々が住むこの世界に何が起きているのか?悪魔がはびこっている!この事件を起こした悪魔は人間ではない!」と書いている。

◆偏見に基づく殺人は最近の傾向か、歴史は繰り返しているのか
 事件の詳しい動機は不明だが、「犯人は重度の障害者は全員消えるべきだと語っていた」(アルジャジーラ)など、背景に植松聖容疑者の知的障害者への強い偏見があると、海外メディアも伝えている。WPには、半ばこの偏見に同意するように「実際、彼らを気にかける者などいない。だから、(入所者たちは)この施設に隔離されていた」というコメントも書き込まれている。しかし、これに対しては、入所者と周辺住民の間にはスポーツイベントや祭りを通じて多くの接点があったという報道を引き合いに、反論が寄せられている。

 デイリー・メールには、イスラムテロをはじめとする偏った思想を持つ若者が増えていることを嘆くコメントが目立つ。「アニー」という女性名のコメント主は、「若い世代は、アダルト・オンリーであるはずの暴力的なテレビゲームの影響を受けながら、暴力の中で育っている」と、ゲーム内に見られる女性への扱いを含め「全てが不健康だ」と書く。他にもゲームの悪影響を語るコメントがいくつかある。

 別のコメント主は、「我々はいまだに違いや宗教を理由に人を殺している。テクノロジーの発展と共に人間の思考も発展すると思いがちだが、そうではない。我々はいまだに非常に中世的な考えを持ちながら、武器だけが発展している」と人類の未熟さを語る。このように、今回の事件を最近の傾向の中で捉える意見が多い中で、ナチス・ドイツの人種差別主義や障害者の迫害を引き合いに、歴史が繰り返されているだけだというコメントも見られる。いずれにしても、平和なはずの日本で起きた残虐な事件は、世界中の人々に衝撃を与え、近代史に暗い影を落としたことだけは間違いなさそうだ。

Text by 内村 浩介