“まだFAX、CD、ガラケー!?” ITに保守的と海外が驚き…日本企業衰退の理由との指摘も

 日本を訪れた外国人が驚くことの一つに、「ハイテク」なイメージとは裏腹に、実際には紙の新聞やCDが根強く生き残っているというローテクぶりがある。英BBCが「世界初の非接触型ICカードや新幹線、ソニー・ウォークマンを世界に先駆けて開発した国」が、いまだに「FAXやカセットテープを使っているのはなぜか?」と特集するなど、海外メディアはしばしばこの話題を取り上げている。

 BBCは、今の日本が悩まされている生産性の低さは、新技術の導入に関して非常に保守的な日本企業の悪癖によるものだという意見も取り上げている。慣れ親しんだ古い技術にこだわる高齢者が多いという、少子高齢化の影響も大きいという見方もある。しぶとく生き残る日本の「ローテク」の存在は、現代日本の負の側面の写し鏡なのだろうか?

◆データの「手渡し」を上司が推奨
 テクノロジー関連情報サイト『TECH IN ASIA』は、「日本の超時代遅れな5つのもの」に、「CD」「新聞」「FAX」「DVDレンタル」「フィーチャーフォン(ガラケー)」を挙げている。同サイトは、「日本は、ロボット、ロボトイレ(ウォッシュレット)、気違いじみて速い電車、ダンシング・ロボットであふれた国だと思われている。しかし、実際ははるかに複雑だ。高齢化と腰の重い公共機関のために、この国には技術的な進化がかなり遅れている面もあるのだ」と記す。

 筆者の同サイト編集長、スティーブン・ミルウォード氏は、10年近く前に1台目のiPodを買って以来、CDを1枚も買っていないという。欧米先進国ではそれが当たり前なのだが、日本は世界第2位の音楽市場であるにもかかわらず、音楽セールスの85%がCDで、「発展途上国並み」だと同氏は書く。DVDについては、「データ容量が大きいことなどにより、アメリカでも音楽ほどにはダウンロード販売やストリーミング配信が普及していない」と断りつつ、アメリカではとっくに衰退したDVDレンタルが、日本では今もしっかり生き残っていることを特筆している。

 特にFAXが今もオフィスで現役であることは、多くの外国人ビジネスマンを驚かせているようだ。『TECH IN ASIA』によれば、一人あたりのFAXの使用量は日本が世界最大だ。BBCは、日本企業の99.7%を、新技術の導入に保守的になりがちな中小企業が占めていることをその理由に挙げる。同時に、大手企業でもグローバル企業に比べて“IT保守”の傾向は強いとしている。日本のある有名ハイテク企業の外国人従業員は、匿名を条件にBBCに「データをディスクに焼いて郵送したり、データ提出を『手渡し』で行うことを上司が推奨している」「ソフトウェアのアップデートやBasecampやDropboxのようなツールの導入も上層部によって拒否される」などと内情を暴露している。

◆高齢化や「手書き文化」も要因?
 これらのローテクが生き残っている理由を、我々日本人自身は、はっきりと答えることができるだろうか?『TECH IN ASIA』は、CDが優勢を保っている理由を「明確には特定できない」と書く。しかし、世界的な大型CD店『タワー・レコード』が、世界ではほとんど撤退しているにもかかわらず、日本では変わらず全国展開しているのは紛れも無い事実だ。同サイトは、日本の官僚主義と政府により、「音楽産業の周辺に保護主義的な力学」が働いているという識者の指摘を取り上げているが、この見方もやや具体性に欠ける。

 FAXについては、メーカーのシャープが「FAXの利用はパソコンとスマートフォンの普及で落ちましたが、新しい技術に親しみのない60歳以上の人々は、FAXを好んで使っています」と答えている。中小企業の感覚も、こうした高齢者に近いと指摘するのは、ITコンサルタント会社『インターアローズ』の男澤洋二社長だ。同氏はBBCに「彼らはたいてい郵便とFAXを通信手段に使う。時には手書きのFAXを受け取ることすらある。つまり、そうした企業はWordのようなワープロソフトすら使っていないのです」とコメントしている。

 高齢化やITリテラシーの低さに加え、「データ流出やハッキングを恐れる」という経営者の守りの姿勢も、FAXが延命している理由に挙げられているが、「手書き」を尊重する礼儀の文化も関係しているかもしれない。芸能人が不祥事を起こした際、必ずと言っていいほど、「報道各社にFAXされた手書きの謝罪文」がワイドショーで紹介される。年賀状のやり取りが今も日本の文化として定着しているのもその表れだと言えよう。日本郵便によれば、年賀はがきの発行部数は戦後右肩上がりで増え続け、2003年の44億5936万枚がピーク。以後、Eメールの普及と歩調を合わせるように減少に転じているが、2015年はまだ32億167万枚と、1980年代並みの水準を保っている。

◆「デジタル移行の失敗」が日本衰退の一因という見方も
 ガラケーに代表されるような日本のITガラパゴス状態は、これからもずっと続くのだろうか?日本とアメリカでソフトウェア会社を経営するパトリック・マッケンジー氏は、「日本企業は、概して最新IT技術の導入で外国企業に5年から10年遅れている」と指摘する(『TECH IN ASIA』)。BBCも、「ソニーのような企業でさえ、いまだにFAXを使っている」と驚きを隠せない。

 アベノミクスは、世界に遅れを取っているとされる企業の生産性のアップを、経済再生の鍵に挙げている。日本企業での勤務経験を生かして日本ビジネス専門のコンサルタント会社を経営するロシェール・コップ氏も、「アナログな習慣を捨ててデジタルへの移行に失敗した」ことが、日本企業衰退の理由だとズバリ指摘している(BBC)。コップ氏は、東京とシリコンバレーを比較してこう語る。「アメリカの労働者の方がずっと生産性が高い。なぜなら、彼らは最良のテクノロジーに積極的にアクセスできるからだ」「日本のIT部門は、非常に保守的。外の世界にコンピュータをつなぐことを忌み嫌っていると言えるほどだ。データを盗まれたりハッキングされることを恐れるあまり、外に打って出ることを躊躇している」

 手書き文化などの古き良き伝統を守る姿勢と、「事なかれ主義」は分けて考えなければなるまい。紙の新聞の発行部数は、人口が上回る中国、インド、アメリカを抑えて日本が世界最大だ。最大部数の読売新聞の発行部数は中国国営最大手の人民日報をも上回り、インド最大手の『タイムズ・オブ・インディア』の3倍、アメリカ最大の『ウォール・ストリート・ジャーナル』の4倍だという。こうした事実を肯定的に捉えるか、変化を求めるのか。それが今後の日本の分かれ道になるかもしれない。

Text by 内村 浩介