高齢者の貧困問題をどう考えるべきか 刑務所に入るために罪を犯す人たちも

 日本は高齢化の「先進国」であり、高齢化による日本社会の変容は、しばしば海外メディアが注目するところだ。収入を得るためや、心身の健康を保つため、生きがいとしてなど、さまざまな理由で働き続ける高齢者は多く、政府もその後押しをしている。だが、年金受給額が低かったり、働いていても十分な収入を得られなかったりで、苦しい生活を送る高齢者も少なくない。その結果、高齢者による犯罪が増えているのではないか、といった見方がある。一部の高齢者は刑務所に入るためにあえて罪を犯している、という推測もある。

◆急速に進む高齢化
 内閣府発行の平成27年版高齢社会白書によれば、平成26(2014)年10月1日時点で、日本の総人口は1億2708万人、そのうち65歳以上の高齢者人口が過去最高の3300万人だった。26.0%という割合も同じく過去最高だ。

 日本の総人口は減少期に入ったと考えられているが、高齢者の数はこの先もしばらく増え続ける。高齢者が占める割合は上昇し続け、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」が行った試算の1つでは、2060年にはほぼ40%に上るという。

◆食い詰めた高齢者があえて刑務所行きを望む?
 長寿イコールめでたいことであってほしいところだが、あまりにも急激に高齢化が進行しているせいで、社会はそのインパクトを受けとめきれていない。社会保障費の急増が日本の財政をひどく圧迫していることは周知のとおりだ。財政赤字を抑えるために社会保障費を抑えることが急務なのだが、一方、今の時点でも十分なサポートが得られていない高齢者がいるのも事実だ。

 そういった人の中には、窃盗などの犯罪に手を染めるばかりか、刑務所に入るために、あえて犯罪を繰り返している人もいる、という推測がある。調査会社カスタム・プロダクツのマイケル・ニューマン氏は、経済的側面から見た日本の高齢者犯罪に関するレポートを先月発表し、そのような見解を示した。フィナンシャル・タイムズ紙(FT)がこれを取り上げた。刑務所では1日3食のちゃんとした食事、無料の医療、宿泊施設が保証される、とニューマン氏は語っている。

◆高齢者の犯罪が増えている?
 法務省発行の平成27年版犯罪白書によれば、一般刑法犯の高齢者(65歳以上)の検挙人員は、この20年で約4倍となっている(高齢者人口の増加の影響もある)。平成8(1996)年ごろから著しく増加し、その後、平成19(2007)年からはおおむね横ばいで推移している。検挙人員全体に占める高齢者の割合も大きく増加している。平成7年には3.9%だったのが、平成26年には18.8%となった。

 カスタム・プロダクツのレポートは、60歳以上を高齢者として扱っているが、高齢者の刑務所収容者の増加に注目している。レポートが示す2004~2010年の統計では、ほぼ右肩上がりに人数が増え、高齢者人口10万人当たりでも、2000年約8人、2004年12人、2010年14人と増加している。仮に今後も同様の増え方をすると仮定して計算すると、2036年には31人に達する可能性があるという。

◆刑務所収容には生活保護を上回る費用がかかっている
 ここで問題になるのが、入所受刑者にかかる税金からの支出額である。ニューマン氏の見積もりによると、1人当たり年間380万円かかっているという。その他にも、取り調べや訴訟、移送などにかかった分として30万円が想定されるという。さらに高齢者の場合は収容中の医療費も必要になる。合計して、高齢者受刑者1人当たり420万円、と算出しており、これは福祉制度を通じて得られる可能性のある金額よりもはるかに大きい、とレポートは指摘している

 高齢者の入所受刑者は、再入所者の割合が高いのが特徴だ。FTは、ニッセイ基礎研究所の土堤内昭雄主任研究員が、高齢者の再犯者の割合は今後も上昇し続けると予想している、と伝える。「生活保護を受給する人の割合が戦後で最大になっている。高齢者の約4割が独りで暮らしている。悪循環だ。刑務所を出ても、所持金や家族がないため、すぐに犯罪に頼る」と土堤内氏は語っている。

 カスタム・プロダクツのレポートは、意図的に刑務所行きを望む高齢者への対策として、医療設備を含む大規模な「寮」を建設する方法を検討している。この方法のほうが、刑務所への収容よりもはるかに安くつくことが期待されるという。

◆高齢者の犯罪は今の日本社会を反映?
 テレグラフ紙も、日本で最近あった高齢者による犯罪事件から話を膨らませ、日本の「高齢者犯罪クライシス」について語っている。これは、85歳のすりの常習犯の女性が逮捕された事件と、75歳の男性が子供にたばこのポイ捨てを注意され、暴行したという事件だ。

 テレグラフ紙は、高齢者の犯罪は、格差拡大、伝統的な家族の崩壊を含め、日本社会が現在直面している問題を反映しているように思われる、と語っている。

 また2015年上半期に摘発された高齢者のうち、粗暴犯が前年同期比で10.8%、殺人や強盗などの凶悪犯が11.8%増えたことを伝えている。同紙はこれを格差拡大と結びつけて考えているようだ。

◆年金だけでは国としてもやはり苦しい?
 対照的にAFPは、年を取ってもなお働き続ける日本の高齢者の姿に注目している。日本の65歳以上の高齢者の20%以上が働き続けていると述べ、これは先進国では最も高い比率だと語っている。

 日本の高齢者が働き続ける理由はさまざまだが、精神的、肉体的健康を維持することが多くの人にとって重要だ、とAFPは語っている。また高齢者の所得の足しにもなる、としている。

 日本では今後、労働力人口の減少が見込まれる中、働く高齢者の割合は急増しそうだ、とAFPは語っている。政府もそれを後押ししており、AFPは、政府が企業に高齢者を雇用するよう圧力をかけている、と語っている。

 高齢者の雇用創出が、高齢者の貧困問題の解消の一助となることを期待したい。

Text by 田所秀徳