明日は我が身…日本の高齢化対策に興味津々の海外紙 政府より地方の取り組みを評価?

 現在、日本の人口の25パーセントにあたる65才以上の人口は、2060年には40パーセントに達する。75才以上にいたっては、現在の11パーセントから2倍以上の27パーセントになる見込みだ。

 世界で最初の「スーパー・エイジド・ネイション」と呼ばれる日本の超高齢化社会に対する数々の取り組みに、海外各紙の注目が集まっている。ガーディアンは年1、2度の割合で特集を組んでいるようだ。カナダのトロント・スターやグローブ・アンド・メールも先月、相次いで異例の長編特集を組んだ。

 その背景にあるのは、やがてほぼすべての西側先進諸国が同じように超高齢化社会と向き合わなければならないという事実だ。そこで、日本の一挙手一投足を見守り、その成功と失敗から学ぼうと、各国が注目しているようだ。

◆政府より地域の活動を評価
 日本の直面する試練は、世界最大の長寿国であるとともに、世界最大の債務国でもあることである。その負債額はGDPの230パーセントにもおよぶ。高齢者の健康を守り独立を促すことによって国庫を圧迫する医療・保険関連の支出を減らすことは、政府にとって死活問題である。2010年に頂点を迎えた1億2700万の人口も、その後は下降するいっぽうだ。昨年の死者数から出生数を引いた自然減は26万8千人で、自然減は8年連続となっている。

 これらの事実を踏まえて、日本政府は大胆な措置をとらざるをえなかった。数々の試みのなかで各国からとくに注目されるのが、2000年に導入された介護保険だ。グローブはこれを「完璧からは程遠い」としながらも、試行錯誤を重ねる姿勢は評価している。

 また各紙とも、政府よりもむしろ地方自治体や地域社会の取り組みをより評価している。ガーディアンは横浜市、和光市、大阪府や長野県の各種取り組み、グローブは埼玉の「介護ローソン」を紹介。地方レベルの比較的小さな取り組みにまで各紙が注目しているのには驚く。

◆認知症とともに歩む
 また、ガーディアンとスターは日本の認知症対策にとくに注目している。現在世界で4700万人と言われる認知症患者人口は、2050年には1億3千万になるといわれる。日本では現在460万人を超え、10年後には730万人に達する見込みだ。昨年は1万人以上の患者が行方不明になり、大多数は見つかったが、168人は未だ消息不明のままだ。

 「介護地獄」という日本語まで紹介するスターが着目するのは、厚生労働省が提案する新オレンジプランの一環で、2018年までに認知症初期集中支援チームを全市町村に設置する試みや、デイケア、小規模多機能型居宅介護など。ガーディアンは全国に540万人の訓練されたボランティアを擁するNPO法人「認知症フレンドシップクラブ」を紹介する。

 65才以上人口が30パーセントを超える2025年が「クライシス・ポイント」といわれる。スターは、それまでに日本は認知症患者がよりよい暮らしを送れるよう「誰もが貢献する」社会を実現するという、ロンドン大学キングス・カレッジ老年学研究所の林真由美氏の意見を紹介している。ミシガン大学名誉教授で日本の介護保険に詳しいクレイトン・キャンベル氏によると、日本は、「認知症ケアにおいて世界のどこよりも優れている」そうだ(スター)。

 またガーディアンは、面倒な手続きなどのお役所仕事から解放された、思いやりにあふれる非公式のサポートや草の根運動が効果を生んでいると指摘。こういった社会の連帯力こそ、日本の強みかもしれない。

◆ビジネスチャンスを求めて
 日本の「シルバー・ウェーブ」には明るい側面もある。グローブはシルバーマーケットの経済効果にも着目しており、カナダ企業と資生堂のプロジェクトを紹介。バンクーバーのレプリセル・ライフ・サイエンス社は資生堂から3500万円の融資を受け、社の細胞技術を毛髪再生医療にあてた臨床試験を行っている。可処分所得が多いのも高齢者だ。「大きな、大きなマーケットです」と、神戸の資生堂新領域研究センター再生医療プロジェクト室長の岸本治郎氏は言う(グローブ)。

 とはいえ、高齢化問題はもう一方の側面——少子化問題——とともに対策を練らなければ、真に効果的とはいえないかもしれない。ただ1紙、グローブが指摘するように、2060年で13パーセントを切るのが19歳未満の人口。今後、若年層への金銭的・肉体的負担の増加により、さらに少子化に拍車がかかる。一枚紙の裏と表でもあるのだ。

Text by モーゲンスタン陽子