公共放送の受信料徴収、どの形がベスト? 英国は不払い者に刑事罰、イタリアは自動化を検討

 しばしば日本で話題となる、NHKの受信料制度。受信設備が多様化し、テクノロジーが発達した今では、制度と時代が合わなくなってきたようだ。実は他国でも同様の制度があり、イギリスでは制度維持を求める国側と、それに抵抗する人々の間で軋轢が生じている。

◆受信料制度は各国に
 受信料制度は、世界各国で取り入れられている。日本の場合は、放送法第64条で、「協会(NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と定められているが、不払いに対する罰則はない。イタリアも同様のシステムを取っている。

 イギリスでは、TVライセンスと呼ばれる受信許可証を購入する形となっており、カラーの場合、年額145.50ポンド(約2万7000円)。録画を含めたテレビ放送と、ライブでのオンライン放送サービスでの視聴が対象となり、パソコン、携帯などでの視聴も含まれる。支払われた料金はBBCの運営資金となるが、他局の放送しか見ていなくても支払い義務が生じるのがNHKの場合とは異なる。不払いには最高1000ポンド(約18万7000円)の罰金が科せられ、支払いを拒否すれば収監されることもある。ドイツも同様の制度となっており、受信機の有無に限らず、「放送負担金」として、全世帯に支払い義務が課せられている。

◆暴力、暴言、不払いで抵抗するイギリス人も
 イギリスでは、罰則のためかTVライセンス料不払い率は5、6%程度(TV Licensing Annual Review 2014-2015)だが、支払いに不満を持つ人も多く、しばしばその怒りが徴収員に向けられる、とBBCは報じている。BBCと契約し、料金の徴集を行う会社の団体「TV Licensing」によれば、徴収の訪問時に暴力を受けた徴収員は昨年度89人。ハンマーで殴られたり、テレビを投げつけられた者もいたという。言葉による暴力は271件で、暴言を吐くだけでなく、その様子を撮影したビデオをYouTubeに投稿したり、人の多い通りまで追いかけてきて公衆の面前で罵声を浴びせるなどの事件も報告されているという。

 テレグラフ紙によれば、イギリスでは年間18万人がTVライセンス料の不払いで起訴されており、10年前から倍増しているという。2013年には、罰金の支払いをしなかったため、32人が刑務所行きとなっている。

 現在BBCは、放送後7日間無料でテレビやラジオ番組を視聴できるiPlayerという「見逃しサービス」をネットで提供しており、この場合はTVライセンスを支払わなくても視聴できる。ところがガーディアン紙によれば、政府は今後iPlayerのようなオンデマンドTVにもTVライセンスの支払いを課す考えだという。これが現実となれば、視聴者からの反発は必至だ。また、同様のオンデマンド・サービスを提供する他局も、TVライセンスからは恩恵を受けず広告収入で運営しているチャンネル4などが、不払い者をブロックする必要がでるとして不満を表明しているという(ガーディアン紙)。

◆有効な不払い対策は?
 通信業界向けサイト『Telecompaper』によれば、イタリアではなんと2300万世帯のうち700万世帯が受信料を払っておらず、公共放送局Raiにとっては、年間6億ユーロ(約800億円)の損失になっているという。このため、来年からは受信料を各家庭の電気・ガス代に含めて徴収する法案が提出されており、政府は受信料も引き下げる意向という。一方、日本では2014年度のNHKの受信料収入が過去最高となったが、支払い義務化や罰則導入の議論も出始めている。

 アメリカのエンターテイメント業界誌『Variety』は、受信料を払いテレビを見ている人が、日本では高齢化しつつあると指摘する。同誌は、上智大学の政治学者、中野晃一教授の、「ネットに精通している人々の多くが別の情報源から情報を得るようになった」、「NHKは主に高齢者を対象にしたニュースソースに変わりつつある」という意見を紹介し、局としての変革が必要なことを示唆した。

Text by 山川 真智子