侍の子孫だから日本人は危険?西洋人の3つの誤解、ルーツを英国教授が分析

 ある国や民族についての迷信は、世界中のどこの国でもさまざまに流布されている。日本のステレオタイプについても然りだ。しかし、中には「それは実情とかなり違うのでは……?」と思わされるのも少なくない。権威あるメディアでもそれが見受けられることがある。その1つが、先日にBBCのサイトに掲載された「西洋人による日本にまつわる3つの迷信」だろう。記事では、西洋ではいまだに払拭されていないもの、として紹介されているが、はたしてそうなのだろうか。

 記事を書いたクリス・ハーディング氏は、エディンバラ大学でインド史と日本史を教えている。ハーディング氏は記事で、西洋人の間で長年にわたって作り上げられ払拭されることのない「日本の迷信」を3つ挙げている。以下がその3つ。
1.日本は本質的にヘン
2.日本人は危ない
3.日本の女性は従順
 この3つの説明として挙げられる例が非常に古い。いまだに欧米で払拭されていないのか、西洋人の間で固く信じられているのか…。

◆ところ変われば品変わる
 1つ目の「日本は本質的にヘン」に挙げられているのは、ラフカディオ・ハーンの著作からの引用だ。その中で日本人は「小さく、優美で、親切。ゆったりと緩やか」と紹介されているが、125年前の記述である。他に挙げられている事例は1980年代や1991年にイギリスで放映された日本を面白おかしく紹介する旅番組だ。こちらもすでに20年から30年が経ち、一世代前の話となっている。いまもって欧米人の日本人に対する見方の底流にあるのは、ハーディング氏の言うような「あり得ない! 日本人ってほんとうに不思議!」なのだろうか。

 たしかに、BBCが日本のセックス事情をリポートした「No Sex Please, We’re Japanese」では、恋愛ゲームの二次元の彼女で満足している男性が、驚きをもって伝えられている。しかし「ヘン」かどうかは文化の価値観によっても変わる。例えば、日本人女性の白い肌への固執は特筆すべきものらしく、ウィキペディアでも「美白:Light skin in Japanese culture」として項目が立っている。しかし、欧米人の(デイリー・メイル紙)日焼けに取りつかれて毎月3万円近くもかけている姿は、アジア人の目にも奇異に映る。

◆日本人=侍=カミカゼ=危ない……?
 2つ目の迷信「日本人は危ない」だが、ハーディング氏によれば、第二次世界大戦中の日本軍の蛮行は、欧米で「日本人は残虐」というイメージを植えつけた。これは幕末に侍により西洋人が襲撃され死傷した事件に遡るとのこと。しかし、この「危険な侍」のイメージの一部は、エキゾチックな「暴力とセックス」の話に大金を払う西洋人向けに、日本人が創りだしたものだという。そして、第二次世界大戦中の日本人の妄信的な態度がさらに歪曲を生んだ、とハーディング氏は述べる。この「日本人=侍=日本軍=カミカゼ=危ない」というイメージは、欧米でいまだに残っているものなのか。

 日本が世界でも犯罪率の低い安全な国という事実が、欧米で定着してきているのは確かだ。2013年の東北大震災時の日本人の冷静な態度は絶賛を浴びたし(グローブ・アンド・メイル紙)、今年の5月には、エコノミストの調査部門が発表した「世界で安全な都市」では、東京が1位、大阪3位に選ばれている。BBCの旅行情報を提供するサイトでも、日本に移り住んだイギリス人の体験談として「日本は全般的に信じられないほど、住むのに安全な国だよ」と述べる記事が掲載された。

◆口答えしない=従順とは違うのでは……
 3つ目の「日本の女性は従順」については、ハーディング氏の論によれば、長らく「ゲイシャ」のイメージがつきまとい、さらに1967年には『007は二度死ぬ』のボンド・ガールを務めた浜美枝によって従順なイメージは引き継がれた。21世紀にはAKB48が出現し、恋愛禁止令やビキニで笑顔を振りまく姿が、社会不適合の若い世代や中年世代の男性を慰めている、と指摘。

 確かに日本人全体の風潮として、口答えをしたり、強硬に主張するのをよしとせず、特に女性はそれが求められない。しかし、「口答えをしない=素直に言うことを聞く、つまり従順である」とは少し違うだろう。

 そして、ハーディング氏は、「日本人女性が従順」なのも今に変わっていくだろうとしている。その理由の1つに欧米のフェミニストがアジアで助け出すべき同朋を求めているから、としている。つまり日本の女性の状況を「可哀想な(遅れている)助け出すべき存在」として見ているのだ。そういった視点であれば、確かに迷信はなくならないのかもしれない。

Text by 阿津坂光子